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エル ニョスキ店主の
スペイン バルセロナでの料理修行体験記。
といっても、
料理のお話だけではありません!
時間があるときに少しずつアップさせてもらいます♪
※当ブログの無断転載はしないでくださいね!!
でもまぁ転載するほどの大作でもありませんけど(笑)
2025/01/22 (Wed)
×
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2012/05/25 (Fri)
エクトール、英ちゃん、俺の三人でルームシェアしていたマンションの一階に、
スペインのどこにでもある「バル」が一軒ありました。
「バル」とは、正確に説明すると日本に全く同じものが存在しないのでいつも説明するときに困りますが、日本で言うと「軽食屋兼喫茶店兼居酒屋」みたいなものです。
お茶を飲むだけでもいいし、食事もできるし、お酒を飲みながらサッカーの試合中継をテレビで見てたりと、
「近所の皆の溜まり場」的な、スペイン人の生活にとても密着している場所、というかお店です。
「安い立ち飲みバー」というだけではありません。
うちら三人も、そのバルを大いに活用します。
毎朝仕事に行く前に、家の下のバルで目覚ましのコーヒーを飲んだり、ランチ営業が終わったあと、中抜けで家に帰ってから空腹を満たすのにちょっとしたサンドイッチ「ボカディージョ」を作ってもらって食べたり。
休みの日も、
のんびりとバルのおばちゃんと長々とコーヒーを飲みながら話をしていたりしていました。
そのバルのおばちゃんの名前は、ジョセフィーナ。
もう七十歳近かったかな。
金髪で背が低く、ちょっとぽっちゃりしているけど、いい意味で年寄りっぽさを感じさせないくらい気さくなおばちゃんで、うちらは彼女のことを「フィナ」とあだ名で呼んでいました。
彼女もうちらのことを、ものすごく可愛がってくれました。
そういえば、フィナも俺の名前を「テチュ」と呼ぶ一人でしたね(笑)
彼女はもう随分と長いこと、ここでバルを続けているそうです。
旦那さんは何年か前に亡くなり、娘さんは結婚して一緒に住んでいませんでしたが、息子のダビが同居していて、たまに店の手伝いをしていました。
実は彼、大の遊び好きで。
気が向いた時にしかお店を手伝わないような感じ。
日本で言う「ほぼニート」でした(笑)
それは置いといて。
当時うちらは、そのマンションの三階に住んでいました。
するとある日フィナから、
「私が所有するマンションが同じビルの一階にあるんだけど、来月からそこが空くからあなたたちが借りない?」
という話をもらいました。
同じ建物の、バルのちょうど裏手になります。
その時に住んでいた人が引っ越しをしてしまうので、そのあとに住んでくれる人を探していたようです。
聞いてみると、
家賃はなんとその時に住んでいた同じビルの五階の家賃より30,000ペセタも安い。
部屋数も同じで、三人で楽に住めるスペース。
しかも一階なので、階段を使う必要もないし、さらにそのマンションの一階部分には広い庭「テラス」が付いていたんです。
広さで言うと、テラスだけで15坪くらいありましたね。
日本じゃありえない広さ。
同居猫ベニートも走り回れるし嬉しい話です。
早速三人で話し合いましたが、もちろんその部屋に移ることに即決です。
だって、楽になって家賃も下がるし、大家さんはフィナです。
反対する理由がありません(笑)
フィナからしてみても、見ず知らずの人に部屋を貸すよりかはある程度知っている人に貸して、問題を少なくしようと考えていたのでしょう。
実際に、スペインでは知らない外国人に部屋を貸したりすると、家賃を滞納されたり部屋を汚されたり、知らないうちにその部屋に住む人がどんどん増えたりと、訳の分からない問題が多いようです。
「住む人がどんどん増えたり」ってどうなの(笑)
とにかく、うちらにとっては願ってもない話でした。
早速その部屋を皆で下見に行き、すぐに敷金と家賃を払い、下に引っ越しです。
これもあってか、
フィナとうちらは今まで以上に親子みたいに仲良くなりました。
そんなある日、
エクトールの父親が地元で主催している料理教室に俺が呼ばれました。
講習を受けにではなく、料理の講師として。
エクトールの父親、母親、妹は以前より紹介してもらっていて、何かあるたびに家族の食事に招待されたり、俺の親父がスペインに来たときに皆で食事をしたりと、ある意味家族ぐるみの付き合いをしていました。
そんなエクトールの父親から「日本料理を作って欲しい」と前々から頼まれていてついに講習会が実現するのですが、料理教室のネーミングに笑えました。
「(料理が作れない故に)役に立てない人達のための料理教室」
さすがスペイン(笑)
そこに教えに行くのだから、
メニューは当然凝ったものを作る必要が無く、簡単な物にしようと。
そこで俺が教えたのは、
・鶏の唐揚げ
・海苔巻き
・豚汁 の三品です。
生魚は使わず、海苔巻きにはアボカドと特製スパイシー味噌ダレを入れたり、向こうの人でも簡単に作れて抵抗無く食べられるようなものにしました。
実際には、全く料理のできない人達ではなく、単に料理を趣味として、近所の人たちと集まってワイワイやるのが目的の人達が多かったですね。
中には、四十代の女性や新婚ホヤホヤのお姉ちゃんもいましたが、ほとんどが四十代から五十代の男性でした。
以前にもスペインの料理学校に行って講師みたいなことを一度だけさせていただいたことがありました。
そのときはかなり緊張していてあまり覚えていませんが、
今回は気楽にわいわいと皆で料理を楽しみました。
しかもなんとその日、
エクトールの親が町のローカル新聞記者を呼んでいて、その記者さんに俺の写真を撮っていただいたのですが、次の日のローカル新聞に俺が載ったんですよ。
そのときの新聞記事を家の下のバルに持ってってフィナに見せるやいなや、
「あら、すごいじゃない!!これ、私にちょっと貸してよ!」
「うん、いいよ」
フィナはしばらくその記事を嬉しそうに眺めていました。
が、
その新聞記事の切り抜きを未だに返してもらっていません(笑)
ほとんどいつもといっていいほど、
仕事が休みの日にはフィナのバルで朝はとりあえずコーヒーを飲んでクロワッサンを食べ、また部屋に戻ったり、出かけたり。
昼にはボカディージョを作ってもらって、コカコーラを飲みながら食べ、最後にコーヒーで締める。
夜はポテトチップをつまみながらビールを飲み、フィナと一緒にいろんな話をしていました。
そりゃ太るわ(笑)
ここではランチメニューもやっていたみたいですが、俺はフィナが作るボカディージョが大のお気に入りでした。
普通のバゲットパンを横半分に切り開いて、そこにすりおろしたトマトを塗って、塩とオリーブオイルをかける。
これで、
スペイン・カタルーニャ地方の「Pan con Tomate(パンコントマテ)」の出来上がり。
そこにいろいろと具をはさんでもらいます。
特に俺は、フィナの作る「チーズ入りオムレツ」がお気に入り。
注文すると、フィナは先にコーラを出してくれてそれから作り始めるので、コーラを飲み干してしまうくらいになってからやっと出てくるボカディージョ。
そのためコーラを二本飲んだり、ポテトチップを食べながら待つときもありましたが、文句ひとつ言わずにテレビを見たりタバコを吸いながら出来上がるのをじっと待ってました。
そして待ちに待った、やっと出来上がったボカディージョ。
オムレツはふわふわで、温かくて、一口かじると中身はトロッとしているのですが、
それは卵が半熟になっているからではなく、「溶けるチーズ」が入っているからです。
というのもフィナ、長い時間オムレツを焼いているからあっという間に熱が入って卵がすぐに固まってしまうんです。
だから彼女に頼むときはいつも、
「フィナ、オムレツの卵は半熟でよろしく!」
とお願いするけど、
出来上がるといつも同じ、固いオムレツです。
たまに野菜も食べたいと思い、野菜だけでは味気無いのでツナ缶をマヨネーズで和えて、そこにトマトやレタスを載せてもらったりして作ってもらっていました。
コレも俺のお気に入りのボカディージョのひとつです。
だけどフィナ、
ボカディージョを作るときになんとそのツナ缶の油を切らないんです。
そのため、いつも出来上がってくるツナ入りのボカディージョは、一口食べると周りから油がダラダラと垂れてきます。
ツナ入りが食べたいときはさりげなく、嫌味のない感じで頼んでみます。
「フィナ、今回はツナの油はちゃんと切ってね!」
「はいはい」
そうお願いするとフィナも快く返事してくれて、裏のキッチンに入って一生懸命作ってくれます。
だけど、
毎回出てくるのはパンの下の部分がツナ缶の油でヒタヒタになりそうなくらいの、ツナと野菜(と、油)のボカディージョ(笑)
今回も一口かじると当然油が垂れます。
そう、フィナは
「油を切る」というより、「浮いている汁を流す」ことしかしていなかったんです。
そんなフィナをカウンター越しに眺めながら、
「あぁ。フィナ、またツナの油切ってないよ」と思いながらいつも一人で笑ってました。
それでもフィナの作るものが、
今までスペインで食べたボカディージョの中で一番美味しかったです。
どんなに油まみれでも(笑)
どこにでもある材料で作るボカディージョだったけど、よその店と違っていたのは、フィナの作るそれには愛情がこもっていました。
どんなにオムレツの卵が硬かろうが、
ツナの油を切ってなかろうが、
スライスした腸詰めの皮が付いたままだろうが(笑)
フィナの作ってくれたそれが、俺には一番愛情がこもっていて美味しかったんです。
高くて美味しい食材を使ってよほど変な調理をしなければ、美味しい料理を作るのは簡単なことです。
でも、安っぽい、どこにでもあるような食材を使っておいしい料理を作るには、やはりどれだけその料理に愛情を込められるかにかかってくるでしょうし、そういう料理を作るほうが、高い食材を使うよりはるかに難しいと俺は思います。
実際に、外食をする時より「大切な人」が自分のために作ってくれた食事ってものすごくその人の愛情を感じるときがありますよね。
「塩味」や「焼き加減」云々ではなく、
見ただけで愛情がこもっているかそうでないのかくらいはよく分かるし、食べればそれがもっと分かります。
「何がどういう風に愛情なの?」と聞かれても、その質問には俺は答えることはできません。
なぜなら、その料理に込められている愛情というのは、「誰が、誰に作ってあげるか」によって違いますから。
そう考えると、自分の店で愛情のこもった料理をお客さん全員に作るということは並大抵のことではありませんが、実際にそういう「心のこもった料理」をみんなに作れるコックさんはたくさんいますので、俺もそういうコックになりたいと常々思っています。
少し話はそれましたが。
うちらがそのマンションを引っ越してから、しばらくしてフィナは店を閉めました。
うちらが引っ越す前から彼女はうちらに、バルでこんなことを話してました。
「これからはゆっくり家でのんびりと生活するわ。」
それを聞いてちょっと寂しくなりましたが、
実際には体力的にもきつかったのかもしれないので、仕方ないですよね。
とにかく、
しつこいようですがフィナの料理は美味しかったです。
また彼女の作ったボカディージョ食べたいなぁ。
フィナが作ってくれたあのボカディージョの味を思い出して、俺も負けないくらいの愛情のこもった料理を作ってお客さんに喜んで欲しいですし、
俺の料理でいつかフィナを驚かせたいです。
でも、ツナ缶の油は切りませんよ(笑)
★★★つづく★★★
エクトール、英ちゃん、俺の三人でルームシェアしていたマンションの一階に、
スペインのどこにでもある「バル」が一軒ありました。
「バル」とは、正確に説明すると日本に全く同じものが存在しないのでいつも説明するときに困りますが、日本で言うと「軽食屋兼喫茶店兼居酒屋」みたいなものです。
お茶を飲むだけでもいいし、食事もできるし、お酒を飲みながらサッカーの試合中継をテレビで見てたりと、
「近所の皆の溜まり場」的な、スペイン人の生活にとても密着している場所、というかお店です。
「安い立ち飲みバー」というだけではありません。
うちら三人も、そのバルを大いに活用します。
毎朝仕事に行く前に、家の下のバルで目覚ましのコーヒーを飲んだり、ランチ営業が終わったあと、中抜けで家に帰ってから空腹を満たすのにちょっとしたサンドイッチ「ボカディージョ」を作ってもらって食べたり。
休みの日も、
のんびりとバルのおばちゃんと長々とコーヒーを飲みながら話をしていたりしていました。
そのバルのおばちゃんの名前は、ジョセフィーナ。
もう七十歳近かったかな。
金髪で背が低く、ちょっとぽっちゃりしているけど、いい意味で年寄りっぽさを感じさせないくらい気さくなおばちゃんで、うちらは彼女のことを「フィナ」とあだ名で呼んでいました。
彼女もうちらのことを、ものすごく可愛がってくれました。
そういえば、フィナも俺の名前を「テチュ」と呼ぶ一人でしたね(笑)
彼女はもう随分と長いこと、ここでバルを続けているそうです。
旦那さんは何年か前に亡くなり、娘さんは結婚して一緒に住んでいませんでしたが、息子のダビが同居していて、たまに店の手伝いをしていました。
実は彼、大の遊び好きで。
気が向いた時にしかお店を手伝わないような感じ。
日本で言う「ほぼニート」でした(笑)
それは置いといて。
当時うちらは、そのマンションの三階に住んでいました。
するとある日フィナから、
「私が所有するマンションが同じビルの一階にあるんだけど、来月からそこが空くからあなたたちが借りない?」
という話をもらいました。
同じ建物の、バルのちょうど裏手になります。
その時に住んでいた人が引っ越しをしてしまうので、そのあとに住んでくれる人を探していたようです。
聞いてみると、
家賃はなんとその時に住んでいた同じビルの五階の家賃より30,000ペセタも安い。
部屋数も同じで、三人で楽に住めるスペース。
しかも一階なので、階段を使う必要もないし、さらにそのマンションの一階部分には広い庭「テラス」が付いていたんです。
広さで言うと、テラスだけで15坪くらいありましたね。
日本じゃありえない広さ。
同居猫ベニートも走り回れるし嬉しい話です。
早速三人で話し合いましたが、もちろんその部屋に移ることに即決です。
だって、楽になって家賃も下がるし、大家さんはフィナです。
反対する理由がありません(笑)
フィナからしてみても、見ず知らずの人に部屋を貸すよりかはある程度知っている人に貸して、問題を少なくしようと考えていたのでしょう。
実際に、スペインでは知らない外国人に部屋を貸したりすると、家賃を滞納されたり部屋を汚されたり、知らないうちにその部屋に住む人がどんどん増えたりと、訳の分からない問題が多いようです。
「住む人がどんどん増えたり」ってどうなの(笑)
とにかく、うちらにとっては願ってもない話でした。
早速その部屋を皆で下見に行き、すぐに敷金と家賃を払い、下に引っ越しです。
これもあってか、
フィナとうちらは今まで以上に親子みたいに仲良くなりました。
そんなある日、
エクトールの父親が地元で主催している料理教室に俺が呼ばれました。
講習を受けにではなく、料理の講師として。
エクトールの父親、母親、妹は以前より紹介してもらっていて、何かあるたびに家族の食事に招待されたり、俺の親父がスペインに来たときに皆で食事をしたりと、ある意味家族ぐるみの付き合いをしていました。
そんなエクトールの父親から「日本料理を作って欲しい」と前々から頼まれていてついに講習会が実現するのですが、料理教室のネーミングに笑えました。
「(料理が作れない故に)役に立てない人達のための料理教室」
さすがスペイン(笑)
そこに教えに行くのだから、
メニューは当然凝ったものを作る必要が無く、簡単な物にしようと。
そこで俺が教えたのは、
・鶏の唐揚げ
・海苔巻き
・豚汁 の三品です。
生魚は使わず、海苔巻きにはアボカドと特製スパイシー味噌ダレを入れたり、向こうの人でも簡単に作れて抵抗無く食べられるようなものにしました。
実際には、全く料理のできない人達ではなく、単に料理を趣味として、近所の人たちと集まってワイワイやるのが目的の人達が多かったですね。
中には、四十代の女性や新婚ホヤホヤのお姉ちゃんもいましたが、ほとんどが四十代から五十代の男性でした。
以前にもスペインの料理学校に行って講師みたいなことを一度だけさせていただいたことがありました。
そのときはかなり緊張していてあまり覚えていませんが、
今回は気楽にわいわいと皆で料理を楽しみました。
しかもなんとその日、
エクトールの親が町のローカル新聞記者を呼んでいて、その記者さんに俺の写真を撮っていただいたのですが、次の日のローカル新聞に俺が載ったんですよ。
そのときの新聞記事を家の下のバルに持ってってフィナに見せるやいなや、
「あら、すごいじゃない!!これ、私にちょっと貸してよ!」
「うん、いいよ」
フィナはしばらくその記事を嬉しそうに眺めていました。
が、
その新聞記事の切り抜きを未だに返してもらっていません(笑)
ほとんどいつもといっていいほど、
仕事が休みの日にはフィナのバルで朝はとりあえずコーヒーを飲んでクロワッサンを食べ、また部屋に戻ったり、出かけたり。
昼にはボカディージョを作ってもらって、コカコーラを飲みながら食べ、最後にコーヒーで締める。
夜はポテトチップをつまみながらビールを飲み、フィナと一緒にいろんな話をしていました。
そりゃ太るわ(笑)
ここではランチメニューもやっていたみたいですが、俺はフィナが作るボカディージョが大のお気に入りでした。
普通のバゲットパンを横半分に切り開いて、そこにすりおろしたトマトを塗って、塩とオリーブオイルをかける。
これで、
スペイン・カタルーニャ地方の「Pan con Tomate(パンコントマテ)」の出来上がり。
そこにいろいろと具をはさんでもらいます。
特に俺は、フィナの作る「チーズ入りオムレツ」がお気に入り。
注文すると、フィナは先にコーラを出してくれてそれから作り始めるので、コーラを飲み干してしまうくらいになってからやっと出てくるボカディージョ。
そのためコーラを二本飲んだり、ポテトチップを食べながら待つときもありましたが、文句ひとつ言わずにテレビを見たりタバコを吸いながら出来上がるのをじっと待ってました。
そして待ちに待った、やっと出来上がったボカディージョ。
オムレツはふわふわで、温かくて、一口かじると中身はトロッとしているのですが、
それは卵が半熟になっているからではなく、「溶けるチーズ」が入っているからです。
というのもフィナ、長い時間オムレツを焼いているからあっという間に熱が入って卵がすぐに固まってしまうんです。
だから彼女に頼むときはいつも、
「フィナ、オムレツの卵は半熟でよろしく!」
とお願いするけど、
出来上がるといつも同じ、固いオムレツです。
たまに野菜も食べたいと思い、野菜だけでは味気無いのでツナ缶をマヨネーズで和えて、そこにトマトやレタスを載せてもらったりして作ってもらっていました。
コレも俺のお気に入りのボカディージョのひとつです。
だけどフィナ、
ボカディージョを作るときになんとそのツナ缶の油を切らないんです。
そのため、いつも出来上がってくるツナ入りのボカディージョは、一口食べると周りから油がダラダラと垂れてきます。
ツナ入りが食べたいときはさりげなく、嫌味のない感じで頼んでみます。
「フィナ、今回はツナの油はちゃんと切ってね!」
「はいはい」
そうお願いするとフィナも快く返事してくれて、裏のキッチンに入って一生懸命作ってくれます。
だけど、
毎回出てくるのはパンの下の部分がツナ缶の油でヒタヒタになりそうなくらいの、ツナと野菜(と、油)のボカディージョ(笑)
今回も一口かじると当然油が垂れます。
そう、フィナは
「油を切る」というより、「浮いている汁を流す」ことしかしていなかったんです。
そんなフィナをカウンター越しに眺めながら、
「あぁ。フィナ、またツナの油切ってないよ」と思いながらいつも一人で笑ってました。
それでもフィナの作るものが、
今までスペインで食べたボカディージョの中で一番美味しかったです。
どんなに油まみれでも(笑)
どこにでもある材料で作るボカディージョだったけど、よその店と違っていたのは、フィナの作るそれには愛情がこもっていました。
どんなにオムレツの卵が硬かろうが、
ツナの油を切ってなかろうが、
スライスした腸詰めの皮が付いたままだろうが(笑)
フィナの作ってくれたそれが、俺には一番愛情がこもっていて美味しかったんです。
高くて美味しい食材を使ってよほど変な調理をしなければ、美味しい料理を作るのは簡単なことです。
でも、安っぽい、どこにでもあるような食材を使っておいしい料理を作るには、やはりどれだけその料理に愛情を込められるかにかかってくるでしょうし、そういう料理を作るほうが、高い食材を使うよりはるかに難しいと俺は思います。
実際に、外食をする時より「大切な人」が自分のために作ってくれた食事ってものすごくその人の愛情を感じるときがありますよね。
「塩味」や「焼き加減」云々ではなく、
見ただけで愛情がこもっているかそうでないのかくらいはよく分かるし、食べればそれがもっと分かります。
「何がどういう風に愛情なの?」と聞かれても、その質問には俺は答えることはできません。
なぜなら、その料理に込められている愛情というのは、「誰が、誰に作ってあげるか」によって違いますから。
そう考えると、自分の店で愛情のこもった料理をお客さん全員に作るということは並大抵のことではありませんが、実際にそういう「心のこもった料理」をみんなに作れるコックさんはたくさんいますので、俺もそういうコックになりたいと常々思っています。
少し話はそれましたが。
うちらがそのマンションを引っ越してから、しばらくしてフィナは店を閉めました。
うちらが引っ越す前から彼女はうちらに、バルでこんなことを話してました。
「これからはゆっくり家でのんびりと生活するわ。」
それを聞いてちょっと寂しくなりましたが、
実際には体力的にもきつかったのかもしれないので、仕方ないですよね。
とにかく、
しつこいようですがフィナの料理は美味しかったです。
また彼女の作ったボカディージョ食べたいなぁ。
フィナが作ってくれたあのボカディージョの味を思い出して、俺も負けないくらいの愛情のこもった料理を作ってお客さんに喜んで欲しいですし、
俺の料理でいつかフィナを驚かせたいです。
でも、ツナ缶の油は切りませんよ(笑)
★★★つづく★★★
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