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サンセバスチャンの興奮も冷めないうちに、俺はバルセロナへ戻りました。
ジャン・ポールの店は9月から再開すると聞いていたので、8月いっぱいはバルセロナでゆっくりしていようと決めていました。
なぜかというと、
8月はどこに行っても人が居ないのです。
そう、スペインではバカンスシーズンに入っているからです。
バカンスシーズンに入ると、ここの人たちは有給で1ヶ月も休みます。
日本人の俺からしてみるとうらやましい限りですよ、ホント。
と言いながら俺も1ヶ月間とはいきませんが「バカンス旅行」を満喫して、
もうこれ以上お金は使えないので、どこにも行かずに「新居」でゆっくりしていたのです。
でも、何をしていいのか分からないくらいに暇な時間を持て余すことに。
知り合いも友達もいないし、部屋には誰もいません。
話す人もいなければ、相手にしてくれる人もいませんでした。
仕方なく町をぶらぶらして
食事の買い物に行って
家に帰って食事を作って食べては寝る
これ、結構つまらないものですね。
旅行で来ているのであれば、「よし、今日はあそこに行こう!」「ここに食べに行こう!」となるのでしょうが、いかんせん先立つものがありませんでした。
しょうがない。しばらくはのんびりとしていますか。
こんな生活を一週間くらい続けたある日、エクトールから電話がありました。
「久し振り、元気?」
「うん、元気だけど、誰もいないし、暇だよ」
「そっか。いや、実はね、テツに仕事が見つかるかもしれないんだよ。
しかも、俺と一緒に働けるかもしれないんだよ!!」
と、エクトール。
なんだか今日の彼は、いつも荒い息がもっと荒くなっています。
俺は、何がなんだかさっぱり分からなかったので、とりあえずもう一度聞き直します。
「どうしたの? なに? 仕事って」
「コックの仕事に決まってるだろ? 明日でもそっち行って説明するから!」
エクトールは俺に何が言いたかったのか全然分かりませんでしたが、
とりあえず翌日になるのを待って寝ることにしました。
翌日、約束の時間より大幅に遅れてきたエクトールは、
俺に会うなり昨日話していた仕事の話の続きを始めました。
「実はね、俺が働きに行ってる店『フォルケー』って日曜が休みで、その休みを利用して、あるレストランに行って勉強してるんだよ。それでね、そこのシェフがテツに会いたいから一度お店に連れて来いって俺に言ってるんだよ」
「へぇ、そうなんだ。そのお店ってどこにあるの?」
「ジローナだよ。カスティージョ デ アロってところなんだけど。今度連れてくよ」
「ところで、そのシェフって、誰?」
それまで俺はケイゴさんの店でしか働いていなかったので、
そういう、『スペインで有名なシェフ』などは全く知りませんでした。
当時知っていたのは『アルサーク』のシェフくらいでしたね(笑)
「ジョアン・ピケって言うんだよ。この前、彼にテツの話をしたんだよ。『今、日本人でスペイン料理を勉強しに来てる奴と一緒に住んでます』って言ったら、『その日本人と話がしたいから、連れて来い』って」
このジョアンというシェフ、ジローナでは名の通ったシェフだそうで、ミシュランの一つ星も取ったことのあるシェフだそうです。
早速二人で本屋に行き、
「1999年版 スペイン美食レストランガイドブック」
という本を買って、彼の名前を探します。
すぐに彼の名前を見つけると、
『10点満点中7.5点』です。
本に何が詳しく書いてあるのか読めませんでしたが、
有名なシェフなんだろうとは思いました(笑)
しかし、まさかそんな風に仕事の声がかかるとは思ってもいませんでした。
しかも、そのジョアンというシェフが、
『今年の秋に、バルセロナで新しくレストランをオープンさせる』
という話をエクトールは俺に続けます。
「とりあえず、今度そのお店に行って彼と話す? 行ってみないと分からないしね」
「うん、そうしよう。今度また電話で決めようか?」
そんな話をして、すぐにエクトールは仕事へ向かいました。
まぁ、
『とりあえず、会って話を聞くのも悪くないのかな?』
と考え、彼の休みと予定を合わせることにしました。
★★★つづく★★★
アルサークを予約していた時間より少し早く着いていたので、
俺はレストランの向かいにあるバルへ入って時間を潰していました。
コーヒーを飲みながら、向かいにある3つ星レストランをしばらく眺めます。
「すげぇなぁ。俺はこれからあのレストランで食事をするのか!」
一人でですけどね(笑)
すると、隣でお酒を飲んでいたおじさんが、
「君、何処から来たの?」
聞かなくても判りません?(笑)
「日本だよ。なんで?」
「いや、前にあそこのレストランに日本人が来てたんだよ、働きにね」
「へぇ、そうだったの!?」
意外でした。
まさか、ここまで日本人が来ているとは。
隣のおじさんとそんな話をしていたら
予約の時間になったので、俺はアルサークへ向かいます。
ということは、
「ひょっとしたら、俺もこの店で働かせてもらえるかもしれない?」
「いや、そんなことないでしょ~」と思いながらも、
ちょっとだけそんな期待も抱きつつ店に入りました。
「アルサーク」のシェフ、ファン・マリ・アルサーク。
当時、結構な年齢だと思いましたが、若々しい人です。
そして、そのシェフの娘エレナがお店の入り口まで俺を迎えに来てくれて、彼女に連れられてお店を案内してもらいました。
学校の先生から話をしておいたもらっていたので、すぐに調理場を案内してくれました。
――生まれて初めて入る、三ツ星レストランの厨房――
そりゃ緊張しますって(笑)
厨房を見渡すと、
たくさんのコックがいて、みんな無言で黙々と料理を作っています。
語学学校の担任の友達だったこのレストランの二番シェフ、ぺジョにも会いました。
なぜか俺はすごく緊張していて、彼に「Hola」というのがやっとです。
俺は相当緊張していたみたいです。
だって、初めて見る光景でしたから。
とにかく、厨房の中には人がいっぱいいました。
二十じゃ利かないくらいで、ざっと三十から四十人はいたでしょう。
その皆が、さりげなく俺のことを「ちら見」します。
「すげぇ、こんなにいっぱいの人がここで働いてるんだ!」
と、俺は絶句です。
実は、
俺は店に入ったときに、
前もってエレナに「できればここで勉強してみたいのですが・・・」と話しておいたのです。
すると彼女は、直接シェフに伝えてあげると言ってくれて、俺を厨房の奥にある「シェフルーム」へ案内してくれて、早速シェフに挨拶することになりました。
するとシェフは、
「ここに勉強に来たいんだって?それはいいけど、今から一年以上も待たなきゃいけないよ?早くて来年の十月からだね。それに、労働許可証も取れないし、自分で住むところも探すんだよ?」
「はい、それでよろしければ、是非来たいのですが!」
もう、勢いで言ってますね(笑)
「それじゃ、君の名前と連絡先を書いておくから、そのときになったら連絡するからね」
「Tetsuya Terakado」と書き、
ケイゴさんのお店の番号を連絡先にしておきました。
このお店は、毎年10月から1年間という期間で「研修生」を入れているらしいのですが、すでに今年の10月からの研修生の受付は終了していたみたいで、その翌年まで待たないと席が空いていなかったのです。
でも、1年後にはこのお店で勉強させてもらえるのです。
気がついたら俺は
何を話していいか分からないくらい舞い上がっていました。
「マジで? 俺がここに勉強しに来れるの!? 信じられない!!」
すごく感情が高ぶりながらも、俺は席に着いて食事を始めます。
一人で食事に来ているのは、予想通り俺だけでしたね(笑)
周りは十人くらいの団体さんがいたり、お金持ちそうなカップルがいたりと様々でしたが、東洋人はもちろん俺一人だけ。
しかも俺は料理が来るたびに写真を撮っていて、フラッシュもガンガンです。
周りの人もあのフラッシュが気になったでしょうが、俺はそんなことを気にしてなんかいられません。
写真を撮ることと、食べることに没頭していました。
そんな中、両隣の席の人たちと片言で話をして、なんとか写真を撮っていることを気にしないようにと、お願いしておきます。
次から次へと美味しい料理が出てきます。
あのときの料理を見つめる俺の目は、間違いなくすごい光を放っていたかと思われます。
だって、
25歳で、背伸びしちゃって三ツ星レストランでお食事ですよ?
しかも一人寂しく(笑)
全部食べ終わった頃には、動けないほどお腹がいっぱいになってしまいました。
帰りがけに、お店の中でペジョとエレナの二人と一緒に記念写真を撮ります。
帰り際にエレナに確認です。
「本当に僕は、来年の10月にこのお店に来れるんですよね!?」
「さっきそういう話を彼としたんでしょ?」と、エレナ。
念のためもう一度聞いてしまいましたが、俺はここに来ることができるのです。
勉強しに来ちゃうんですってば(笑)
ここでも少量でしたがワインを飲んでいたので、いつの間にか酒が回っていて眠くなってしまい、そのまま真っ直ぐペンションに帰って寝ようと思っていたのですが、
この日の夜は珍しく興奮していて、ペンションに戻ってもなかなか寝付けませんでした。
そして翌日、もう一度市内を回ります。朝一で市場見学です。
地方によって、若干扱っている魚が違います。
そんな単純な事にもものすごく興味が湧いてしまい、ひたすら写真を撮りまくります。
その後もまた、レストラン街にある美味しそうな店に入って、バスク料理を堪能しました。
しかし、
もう俺の頭の中には「アルサーク」のことしか頭にありません。
「それまでどうやってお金を貯めよう?」とか、
「それまで一度日本に帰るべきか?そうでないか?」とか。
とにかく俺は興奮しっぱなしでした。
★★★つづく★★★
「これ、少ないけど、何かの足しに使って!」
と、お小遣いまでいただきまして。
しかし今回も、彼らはいつもの通りお店にあるお菓子をたくさんくれました。
いつも彼らは「これでもか!!」というくらいお菓子をくれます。
「タイスは俺の事どう思ってるんだろ?」
あれ、違いました?(笑)
すると、しばらくしてから、何か変な感じがすることに気がつきました。
あの緊張の仕方は、近年稀に見る緊張っぷりです。
さてさて。
これからどうなるんだろ?
どんなことが俺を待ってるのかな?
★★★つづく★★★
二十三歳でスペインに来た俺は、
★★★つづく★★★
タイスに書く手紙のことばかり考えていました(笑)
★★★つづく★★★