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夏の暑い日も過ぎてもうすぐ9月になろうとしていた頃、エクトールと予定を合わせてジョアン・ピケのレストランに行くことになりました。
道中、エクトールの運転がおっかないことおっかないこと。
走行車線を走らないで、なんと走行車線を二つまたいで走ります。
指摘しないと、ずっとそのままで運転してます(笑)
しかも、シートベルトも締めず。
「体が太くて締められないからベルトはしない」と、彼は言います。
しばらくすると、彼は運転中に居眠りを始めます。
いびきも相当なくらいかくのですが、
『夜に寝ているときにたまに呼吸も止まっちゃうみたいなんだ。だから昼間、急に眠くなるんだよ』
と彼は続けます。
「え!」
そうです。
「睡眠時無呼吸症候群」です。
でも、ベルトは締めようよ(笑)
でも、それで運転中に彼に眠られたら、こっちもたまりません。
俺は彼を起こすのに必死です。
「エクトール、寝るなよ!」
「・・・大丈夫、寝てないから」
「って、目、閉じてない?」
そんな会話が延々と一時間半くらい続きます。
そんなやりとりをしながら、バルセロナから高速に乗って、ジローナ方面に向かいます。
エクトールの運転は車線をまたいで運転するくらいで、そんなにスピードは出していませんでしたが、他の車はだいたい140km/hで走っています。
中には追い越し車線で160km/h以上は出ているであろう車が、うちらの横を通り過ぎて行きます。
スペインの高速道路は直線が多く、「走りやすい」といえば走りやすいのでしょうが、
一応、高速の制限速度は120km/hなので、正直おっかないです。
――ドライブ中に、山に囲まれた道や、のどかな田園風景を眺める――
なんて余裕は彼のおかげでほとんどありません。
しかもなんと、
高速を走っている中、ガソリンメーターの赤ランプが点灯。
するとエクトールは、
「俺さ、このランプが点くまでガソリンを入れに行かないんだよ。だからこうやって、ランプが点いてから、ここのメーターをゼロにしてさ。そうすればメーターがあるキロ数まで届く前にスタンドに入れば、大丈夫だろ?」
そんなこと自慢しないで先にガソリン入れとけ(笑)
彼はそう言いながら、走行距離のメーターを指差しながら俺に教えますが、
そんなこと、胸を張って言うことではありません。
ここでガス欠になっても、俺は絶対に車を押すつもりは全くありません。
その前に、もしスタンドが見つからなければ彼は一体どうするのでしょうか!?
それを考えると「呆れる」を通り越して「もうどうでもいいや」になってきます。
怒っても俺が疲れるだけです。
まったくいい加減というか、なんと言うか。
しかし、これでも「なんとかなってしまう」のですから、これがこいつの性格なのか、スペイン人の国民性なのかよく分かりませんでしたが、まぁ面白い奴もいるもんだなとすごく感心していましたよ。
同時に、寿命が縮むような思いもしていましたが(笑)
そんなこんなで、「カスティージョ デ アロ」に到着します。
予定の時間より少し早く着いたので、時間合わせのためにレストランの近くにあるバルでコーヒーを飲んで休憩です。
そして、一時を過ぎた頃にレストランに到着しました。
そのレストランは昔のままの建物を使っているお店で、王様のいるお城のような石で出来た大きな家、というか「お屋敷」です。
外から見るだけでも中は相当広そうでした。
「すごいなぁ、こんな建物がレストランかよ!」
と、俺は店に入る前から圧倒されっぱなし。
車から降りて、エクトールの後ろを歩いて店に入ると、
ジョアンの奥さん、クリスティーナが仕事中にもかかわらず、奥のパントリーでお客さんに見えないようにタバコを吸っていました(笑)
うちらを見かけるとタバコを消して店の入り口まで歩いてきて、
「どうも、初めまして!」と、笑顔で迎えてくれます。
続けてエクトールが、彼女に俺のことを紹介してくれます。
「彼が、テツです」
「どうも、初めまして」
軽い握手を交わして、席まで案内されます。
しばらくすると、厨房からシェフのジョアン・ピケがやってきた。
「どうも、初めまして、テチュ、でいいんだっけ?」
そうです。
俺は『テツ』と呼ばれず、最初は『テチュ』と呼ばれていました。
「tsu(ツ)」という発音がスペインにはなく、明らかに発音に苦労しているというか、どう発音していいのか分からないようです。
でも、スペイン人でもこの発音を読める人はちゃんと読めるのですが、
スペイン語で巻き舌を使う「rr」という発音も、日本人にしてみれば発音できる人とできない人がいるので、きっとそんな感覚なのでしょう。
ですが、この「rr」を発音できないと、スペインではどこに行ってもバカにされるのです。
「テツです!」
そう笑顔で返すと、エクトールを何かを話して、シェフは再び厨房へと戻っていきました。
「これからうちらに食事を出してくれるみたいだよ?」
なぜかエクトールも少々緊張していたようです。
それから、エクトールと二人で小声で話しながらシェフのコース料理をご馳走になりました。
「へぇ~・・・」
今まで食べたことがない、奇妙な料理が次から次へと出てきます。
もちろん、美味しいです。
このレストランでは、いわゆる「ヌエバ・コシーナ(ヌーベル・キュイジーヌ)」をやっていて、カタルーニャの郷土料理に創作を混ぜた料理を出していたので、そういう料理はバスク地方の三ツ星レストラン、アルサーク以来でした。
しばらくすると再びジョアン・ピケが厨房から出てきて、うちら二人はシェフのデスクに案内されます。
席に着くやいなや、彼は大きな設計図を広げ出して、こう続けました。
「今年中に、バルセロナでこういうレストランをやるんだけど、その店でちょっとした日本料理を出したいんだよ。今、バルセロナでは日本料理がブームになってきていて、そういう料理も加えたいんだよ。良かったら働きに来ないか?」
「は?」
★★★つづく★★★