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俺が厨房に入ると、すぐにチャビに呼ばれます。
「今日からここのコール場をやってね」
どこのレストランに行っても、最初は冷たい料理から始めるのが順序といえば順序です。
そこからどれだけ仕事ができるかを試され、次第に火を使う仕事をさせてもらえるようになります。
俺の横には、今までそのコール場を任されているダビが一緒になって付いて教えてくれて、仕込みに取り掛かります。
この店は「ヌエバ・コシーナ」と呼ばれるような高級料理店ではなく、本当にシンプルなカタルーニャの郷土料理を出しているお店です。
煮込み、お米、オーブン焼き、鉄板焼き、サラダ、揚げ物など、盛り付けには特にこだわっていないけど全て手作りのお店。
勉強のしがいがあります。
さて。
「仕込み」と言っても、
俺はダビに言われるがまま料理を作って、
気が付いたらお昼になり、
皆で営業前に食事を済ませ、13時からお昼の営業の始まりです。
すると、営業が始まった途端、カマレラ(ウェイトレス)のソニアが厨房に入ってくるやいなや、次から次へとオーダーを読んでいきます。
「え? 今何が入ったの?」
ソニアはとにかくオーダーを読むのが早く、しかもカタラン語で何を言っているのかさっぱり分からなかった俺は、ダビに言われるがままに仕事をします
というより「ただ動いているだけ」でしたね。
だって言われないとなんもわかんないんだもん(笑)
スペインの食事の時間帯は、日本と比べるとちょっと遅めです。
昼は13時から16時くらいまで、夜は20時から24時くらいまでがレストランの営業時間です。
昼も夜も、ラストオーダーの最後の最後までお客さんがひっきりなしに入ってきます。
しかもオーダーはカタラン語なので、俺にはちんぷんかんぷん。
それだけで頭がいっぱいです。
こりゃ慣れるまでかなりの時間がかかりそうだなぁ。
途中、16時から20時までが「中抜け」の時間で、この中抜けの時間に皆は家に帰り昼寝をしたり、軽い食事をします。
俺も初日から中抜けして家に帰ったのですが、どうも習慣付いていないのと、「初日」ということもあり、興奮していて全然眠れませんでした。
そして20時になり店に戻って、夜の営業です。
ワケのわからないまま、あっという間に24時になって一日が終わり、
家に帰ったら急に気が抜けたのか、すぐにベッドへ落ちました。
そんなこんなで、右も左も分からないながらも毎日が過ぎていきましたが、いつからか自然とカタラン語でのオーダーも聞き取れるようになり、二週間もしないうちにダビは別のセクションに移り、コール場は俺一人で任されるようになって、次第に店のコック達とも打ち解けるようになりました。
たった2週間でいきなり任されるようになったので、内心ちょっとだけビビりましたけどね(笑)
さっきも言ったように、ジローナにはというよりか、スペインにはモロッコ人が多いです。
自国で職が少ないためか、海を渡ってまで密入国して職に就こうとする人もいるし、スペインまで海を渡っている最中に海に流されてしまう人や、運良くスペインに着いても警察に捕まって強制送還される人も少なくないそうです。
不法ではない人ももちろんいましたよ。
この店の調理場には五人のモロッコ人がいました。
彼らは「不法」ではありません念のため(笑)
彼らと俺は、「同じ外国人」意識があったためか、いつの間にか仲良くなっていました。
とにかく、このモロッコ人達とは、仕事の合間にバカなことばっかりする仲になります。
できればここでいくつかご紹介したいところですが、
ここでは話しづらいような下ネタ満載な話ばかりなのでお店で俺に聞いてください(笑)
そのモロッコ人のうちの一人ファイサルは、仕事の帰りに俺を彼の家に連れてってくれ、彼の作るモロッコでは定番の「ミントティー」をよくご馳走してもらっていたのですが、とにかくあちらで使う砂糖の量が半端ではなく、俺には甘すぎたくらいです。
それでもいつもお茶をご馳走になっては、皆でいろんな話をして盛り上がってました。
もちろん「下ネタ話」です。
調理場では、にんじんを使ってふざけてみたり。
おっと
あえてここでは「何をした」のかは内緒にしておきます(笑)
彼らモロッコ人には、こういう下ネタがウケました。
というのもモロッコでは宗教上「下ネタ」はご法度らしく、親子の間ではそんな話は間違ってもできないらしいのです。
この調理場にはモロッコ人親子も働いていたので、たまに俺が彼らに下ネタをアラブ語で教えてもらってそれを親の方に伝えようとすると、彼らは真顔になって俺に突っ掛かって止めに来たくらいです。
それでも俺は止めません(笑)
そんなことをしながら毎日を過ごしていました。
あ、
もちろん仕事だって勉強だってちゃんとやってましたよ!(笑)
だけど、
そんな彼らも実は意外と苦労をしているんです。
ある日、いつものように仕事が終わってみんなで一緒に着替えていると、モロッコ人の一人、ラシの右膝から下、くるぶしにかけて弁慶の部分に、斜めに長く大きな切り傷を見つけました。
「これ、何の傷?」
と俺が尋ねると
「ん、なんでもないよ。まぁ俺にだっていろいろあるんだよ!」
と、隠すようにしながら彼はズボンを履きます。
後で彼から教えてもらった話なのですが、彼らモロッコ人はスペイン人と結構仲が悪かったりして、ある日その辺のスペイン人連中と喧嘩をしたときに蹴りを入れようとしたところ、ナイフで思い切りその部分を切りつけられたらしいのです。
とにかく、切られたときは骨まできれいに見えたであろうくらいの、
俺が今までに見たことのないとても大きな傷でした。
「こういうこともあるから、何かあったときのために俺はいつも体を鍛えてるんだよ!」
確かに、彼の持っている力は半端じゃありませんでしたね。
「自分の体は自分で守れ」ですか。
スペイン人でも、モロッコ人と仲良くしてる人だってたくさんいるのですが、中には差別好きな人も。
昔から敵対関係にあった国同士の名残なのでしょうか、
今でも切っても切れない犬猿の仲みたいですね。
厨房にいるスペイン人コックとも、もちろんすぐに打ち解けました。
当時はまだスペイン語を上手に話すことが難しかったのですが、仕事で自分の力を見てもらえれば、大体どこでも意思の疎通には時間がかからないようです。
それでも俺が厨房でできることと言えば基本的なことばかりでしたが、
自分のできることはしっかりとやって、
そして、このお店で新しく目にする料理には、ひたすら釘付けになりながら勉強する毎日を送っていました。
毎日、小さなメモ帳がびっしり埋まるくらいにレシピ書いて
新しい料理を見ては常に味見を要求(笑)
皆の仕込みの動きもメモに取って
常に頭の中でイメージトレーニング。
分からない料理や言葉はその場ですぐ聞いて、またメモに取る
家に帰ってその日に覚えた料理や言葉を復習
毎日厨房でモロッコ人と下ネタ話ばっかり言って遊んでただけじゃありませんから!(笑)
スペインへ来て2年が経ってから
この「スペイン・カタルーニャ地方の郷土料理のお店」と出会いました。
日本のホテルを辞めてスペインに飛んで行って、
右も左も全く分からないときにケイゴさんからスペイン料理の基本を教わり
ジョゼップとパルミラからたくさんのスペイン菓子を教わって
ジャン・ポールとマリアカルメンからはおしゃれな料理を教えてもらい
この辺りから俺は、
スペイン・カタルーニャ料理にどっぷりとはまっていくことになります。
★★★つづく★★★