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エル ニョスキ店主の スペイン バルセロナでの料理修行体験記。 といっても、 料理のお話だけではありません! 時間があるときに少しずつアップさせてもらいます♪ ※当ブログの無断転載はしないでくださいね!! でもまぁ転載するほどの大作でもありませんけど(笑)
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2024/04/26 (Fri)
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2009/12/10 (Thu)

サンセバスチャンの興奮も冷めないうちに、俺はバルセロナへ戻りました。

ジャン・ポールの店は9月から再開すると聞いていたので、8月いっぱいはバルセロナでゆっくりしていようと決めていました。

 

なぜかというと、

8月はどこに行っても人が居ないのです。

 

そう、スペインではバカンスシーズンに入っているからです。

バカンスシーズンに入ると、ここの人たちは有給で1ヶ月も休みます。

日本人の俺からしてみるとうらやましい限りですよ、ホント。

 

と言いながら俺も1ヶ月間とはいきませんが「バカンス旅行」を満喫して、

もうこれ以上お金は使えないので、どこにも行かずに「新居」でゆっくりしていたのです。

 

 

 

でも、何をしていいのか分からないくらいに暇な時間を持て余すことに。 

知り合いも友達もいないし、部屋には誰もいません。

話す人もいなければ、相手にしてくれる人もいませんでした。

 

 

仕方なく町をぶらぶらして

 

食事の買い物に行って

 

家に帰って食事を作って食べては寝る

 

これ、結構つまらないものですね。

旅行で来ているのであれば、「よし、今日はあそこに行こう!」「ここに食べに行こう!」となるのでしょうが、いかんせん先立つものがありませんでした。

 

しょうがない。しばらくはのんびりとしていますか。

 

 

 

 

 

こんな生活を一週間くらい続けたある日、エクトールから電話がありました。

 

「久し振り、元気?」

 

「うん、元気だけど、誰もいないし、暇だよ」

 

「そっか。いや、実はね、テツに仕事が見つかるかもしれないんだよ。
しかも、俺と一緒に働けるかもしれないんだよ!!」

 

と、エクトール。

 

なんだか今日の彼は、いつも荒い息がもっと荒くなっています。

俺は、何がなんだかさっぱり分からなかったので、とりあえずもう一度聞き直します。

 

「どうしたの? なに? 仕事って」

 

「コックの仕事に決まってるだろ? 明日でもそっち行って説明するから!」

 

エクトールは俺に何が言いたかったのか全然分かりませんでしたが、

とりあえず翌日になるのを待って寝ることにしました。

 

 

翌日、約束の時間より大幅に遅れてきたエクトールは、

俺に会うなり昨日話していた仕事の話の続きを始めました。

 

「実はね、俺が働きに行ってる店『フォルケー』って日曜が休みで、その休みを利用して、あるレストランに行って勉強してるんだよ。それでね、そこのシェフがテツに会いたいから一度お店に連れて来いって俺に言ってるんだよ」

 

「へぇ、そうなんだ。そのお店ってどこにあるの?」

 

「ジローナだよ。カスティージョ デ アロってところなんだけど。今度連れてくよ」

 

「ところで、そのシェフって、誰?」

 

それまで俺はケイゴさんの店でしか働いていなかったので、

そういう、『スペインで有名なシェフ』などは全く知りませんでした。

 

当時知っていたのは『アルサーク』のシェフくらいでしたね(笑)

 

「ジョアン・ピケって言うんだよ。この前、彼にテツの話をしたんだよ。『今、日本人でスペイン料理を勉強しに来てる奴と一緒に住んでます』って言ったら、『その日本人と話がしたいから、連れて来い』って」

 

このジョアンというシェフ、ジローナでは名の通ったシェフだそうで、ミシュランの一つ星も取ったことのあるシェフだそうです。

 

早速二人で本屋に行き、

「1999年版 スペイン美食レストランガイドブック」

という本を買って、彼の名前を探します。

 

すぐに彼の名前を見つけると、

『10点満点中7.5点』です。

本に何が詳しく書いてあるのか読めませんでしたが、

有名なシェフなんだろうとは思いました(笑) 

 

しかし、まさかそんな風に仕事の声がかかるとは思ってもいませんでした。

 

しかも、そのジョアンというシェフが、

『今年の秋に、バルセロナで新しくレストランをオープンさせる』

という話をエクトールは俺に続けます。

 

「とりあえず、今度そのお店に行って彼と話す? 行ってみないと分からないしね」

 

「うん、そうしよう。今度また電話で決めようか?」

そんな話をして、すぐにエクトールは仕事へ向かいました。

 

 

まぁ、

『とりあえず、会って話を聞くのも悪くないのかな?』

と考え、彼の休みと予定を合わせることにしました。


★★★つづく★★★

 

 

 

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2009/11/12 (Thu)

 


アルサークを予約していた時間より少し早く着いていたので、

俺はレストランの向かいにあるバルへ入って時間を潰していました。


コーヒーを飲みながら、向かいにある3つ星レストランをしばらく眺めます。

 


「すげぇなぁ。俺はこれからあのレストランで食事をするのか!」

 

 

 

一人でですけどね(笑)

 

すると、隣でお酒を飲んでいたおじさんが、

「君、何処から来たの?」

 


聞かなくても判りません?(笑)

 


「日本だよ。なんで?」

 

「いや、前にあそこのレストランに日本人が来てたんだよ、働きにね」

 

「へぇ、そうだったの!?」

 

 

 

意外でした。


まさか、ここまで日本人が来ているとは。


隣のおじさんとそんな話をしていたら

予約の時間になったので、俺はアルサークへ向かいます。

 

 

 

ということは、

「ひょっとしたら、俺もこの店で働かせてもらえるかもしれない?」

 

「いや、そんなことないでしょ~」と思いながらも、


ちょっとだけそんな期待も抱きつつ店に入りました。

 

 

 

「アルサーク」のシェフ、ファン・マリ・アルサーク。

当時、結構な年齢だと思いましたが、若々しい人です。

そして、そのシェフの娘エレナがお店の入り口まで俺を迎えに来てくれて、彼女に連れられてお店を案内してもらいました。

学校の先生から話をしておいたもらっていたので、すぐに調理場を案内してくれました。

 

 

 

――生まれて初めて入る、三ツ星レストランの厨房――

 

 

 

そりゃ緊張しますって(笑)

 

厨房を見渡すと、

たくさんのコックがいて、みんな無言で黙々と料理を作っています。

語学学校の担任の友達だったこのレストランの二番シェフ、ぺジョにも会いました。

 

なぜか俺はすごく緊張していて、彼に「Hola」というのがやっとです。

 

俺は相当緊張していたみたいです。

 

だって、初めて見る光景でしたから。

 

 

とにかく、厨房の中には人がいっぱいいました。

二十じゃ利かないくらいで、ざっと三十から四十人はいたでしょう。

その皆が、さりげなく俺のことを「ちら見」します。

 

 

「すげぇ、こんなにいっぱいの人がここで働いてるんだ!」

と、俺は絶句です。

 


実は、

俺は店に入ったときに、
前もってエレナに「できればここで勉強してみたいのですが・・・」と話しておいたのです。


すると彼女は、直接シェフに伝えてあげると言ってくれて、俺を厨房の奥にある「シェフルーム」へ案内してくれて、早速シェフに挨拶することになりました。

 

 
するとシェフは、

「ここに勉強に来たいんだって?それはいいけど、今から一年以上も待たなきゃいけないよ?早くて来年の十月からだね。それに、労働許可証も取れないし、自分で住むところも探すんだよ?」

 

 

「はい、それでよろしければ、是非来たいのですが!」


もう、勢いで言ってますね(笑)

 

 

「それじゃ、君の名前と連絡先を書いておくから、そのときになったら連絡するからね」


「Tetsuya Terakado」と書き、
ケイゴさんのお店の番号を連絡先にしておきました。
 


このお店は、毎年10月から1年間という期間で「研修生」を入れているらしいのですが、すでに今年の10月からの研修生の受付は終了していたみたいで、その翌年まで待たないと席が空いていなかったのです。

 

でも、1年後にはこのお店で勉強させてもらえるのです。

 

気がついたら俺は

何を話していいか分からないくらい舞い上がっていました。

 



「マジで? 俺がここに勉強しに来れるの!? 信じられない!!」

 

すごく感情が高ぶりながらも、俺は席に着いて食事を始めます。

 


一人で食事に来ているのは、予想通り俺だけでしたね(笑)


 

周りは十人くらいの団体さんがいたり、お金持ちそうなカップルがいたりと様々でしたが、東洋人はもちろん俺一人だけ。

しかも俺は料理が来るたびに写真を撮っていて、フラッシュもガンガンです。

周りの人もあのフラッシュが気になったでしょうが、俺はそんなことを気にしてなんかいられません。

 

写真を撮ることと、食べることに没頭していました。

 

そんな中、両隣の席の人たちと片言で話をして、なんとか写真を撮っていることを気にしないようにと、お願いしておきます。

 



次から次へと美味しい料理が出てきます。

あのときの料理を見つめる俺の目は、間違いなくすごい光を放っていたかと思われます。

 

だって、

25歳で、背伸びしちゃって三ツ星レストランでお食事ですよ?

 

 

しかも一人寂しく(笑)

全部食べ終わった頃には、動けないほどお腹がいっぱいになってしまいました。

 

 

帰りがけに、お店の中でペジョとエレナの二人と一緒に記念写真を撮ります。

 



帰り際にエレナに確認です。

「本当に僕は、来年の10月にこのお店に来れるんですよね!?」

 

「さっきそういう話を彼としたんでしょ?」と、エレナ。

 

念のためもう一度聞いてしまいましたが、俺はここに来ることができるのです。




勉強しに来ちゃうんですってば(笑)

 

 

 

ここでも少量でしたがワインを飲んでいたので、いつの間にか酒が回っていて眠くなってしまい、そのまま真っ直ぐペンションに帰って寝ようと思っていたのですが、

この日の夜は珍しく興奮していて、ペンションに戻ってもなかなか寝付けませんでした。

 

 

 

そして翌日、もう一度市内を回ります。朝一で市場見学です。

地方によって、若干扱っている魚が違います。

そんな単純な事にもものすごく興味が湧いてしまい、ひたすら写真を撮りまくります。

その後もまた、レストラン街にある美味しそうな店に入って、バスク料理を堪能しました。

 

しかし、

もう俺の頭の中には「アルサーク」のことしか頭にありません。

 


「それまでどうやってお金を貯めよう?」とか、

 


「それまで一度日本に帰るべきか?そうでないか?」とか。

 



とにかく俺は興奮しっぱなしでした。



★★★つづく★★★

2009/10/22 (Thu)
「ケイゴさん、ロサさん、長い間お世話になりました!」
 
7月の終わりにケイゴさんたちに別れを告げ、8月にバルセロナへ向かいました。
別れ際に二人から

「これ、少ないけど、何かの足しに使って!」

と、お小遣いまでいただきまして。
 
最初はケイゴさんの店でタダ働きしていましたが、半年くらい経つとお小遣いをいただくようになり。
 
居候している身なのにもかかわらず「お小遣い」だなんて、当時の俺にはものすごくありがたかったです。
だって、他に収入源が全くなかったんですから。
 
しかし、そのほとんどは学校の帰りのランチ代として消えてしまっていましたが、
そのお小遣いのおかげで良い勉強をさせてもらえました。
 
 
「ピエジャ」にも挨拶に行きます。
ジュゼップもパルミラも寂しそうな顔をしていましたが、
別に俺は日本に帰るわけではなく、電車に40分乗って着くところに行くだけです。

しかし今回も、彼らはいつもの通りお店にあるお菓子をたくさんくれました。
 

いつも彼らは「これでもか!!」というくらいお菓子をくれます。
結構小腹がすいているときには助かったというか、
前にもお話しましたが、
 
「これが今夜の食事です・・・」というくらい
その日の食事に困っていたときもありましたから(笑)
 
 
さて。
期待と不安を胸に、カルデデウを出て電車に乗ってバルセロナへ向かいます。
 
いや、期待だけでしたね。
 
不安なこと、強いて言えば



「タイスは俺の事どう思ってるんだろ?」
 
 
 
 

あれ、違いました?(笑)
 
 
これから住むマンションにはすでに何回か行っていたので、迷いもせずに着きました。
部屋に入ると、エクトールが話していた通り、エリとエクトールは実家に帰っていて、アメリカ人の女の子が翌日出発するために荷造りをしていました。
 
「よし、明日は俺もサンセバスチャンに行く準備をしよう!」
 
翌日に俺は荷物をまとめ、その翌日にサンセバスチャンへ向かいました。
サンセバスチャンへは、バルセロナサンツ駅から電車に乗って約八時間の道のり。
結構な距離ですね。
 
電車に乗って席に着き、少しのんびりします。




すると、しばらくしてから、何か変な感じがすることに気がつきました。
 バレンシアやグラナダへ行ったときと、電車から見える景色が少し違って見えるのです。
 
南へ向かったときの電車からの景色は「乾燥した荒い大地」という印象を受けましたが、
北へ向かうときの景色は「緑に包まれた優しい大地」という印象でした。
 
同じ国でもこんなにも景色が全く違うんだなぁと、やけに感心してみたり。
 
 
そして、約8時間の長旅を終えてサンセバスチャンの駅に着くと、
駅前でオスタルやペンションの経営者たちが「客寄せ」のために経営者達自らが駅に出向いて、客引きをしていました。
その中の一人が、俺をめがけて笑顔で寄ってきます。
 
「ちょっとちょっと、今夜の宿、あるの?」
 
「ううん、まだだけど、騙さないよね?」
 
「当たり前だよ! 一泊、これだけでいいから」
 
と言って指を4本立てながら、その開いた手を俺に見せます。
 
一泊4000ペセタだったので、俺はそのおじさんの言葉に安心してその宿に泊まりに行くことにしました。
 
さて。
チェックインして、小さな部屋に入ります。
これがまた想像していた部屋より小さいこと(笑)
 
だって、畳にしてみたら3.5畳? あるかないかくらいの大きさですよ。
そこにベッドと洋服を掛けるクローゼットがあって、
空いてるスペースに自分の荷物を置いたら脚の踏み場もないくらいでした
 
 
というか踏めませんでした(笑)
さらに、
シャワーは共同で使いなさいということ。
 
そこでなぜかふと、あの記憶がよみがえります。
 
 
 
そうです
 
 
あのロシアの
 
暗い
 
寒い
 
お湯が出なかった宿(笑)
 
でも、「あれ」に比べたら、「狭い」くらい俺にはどうって事ありません。
 
「ロシアのホテルに比べれば、まぁいっか? あそこより断然寝心地は良さそうだ!」
 
 
まぁ
あれはあれでよい経験でしたけど(笑)
 
そして早速俺は部屋に荷物を置いて、宿の経営者夫婦に近くのレストラン街を紹介してもらって、一人でサンセバスチャンの町を散策に出掛けました
 
「散策」というより「探検」のほうが正解です。
だって、右も左もわからないところですから。
 
 
さて。
探検を始めて間もなく、
公衆電話から例の三ツ星レストラン「アルサーク」にも予約を入れておきました。
「明日の夜に、一名」で、無事に席を確保(笑)
 
 
そろそろお腹が空いてきました。
サンセバスチャンの中心街に、ところ狭しとレストランが並んでいる一角があります。
俺はその通りを何度も何度も往復して、
そのたくさんあるお店の中でも特にお客が入っていた店に一人で入店を決意します。
 
レストランの中に入ると、客席にテーブルと椅子がところ狭しと並んでいます。
お客さんはもっぱら地元の人が多いようで、外国人観光客など見当たりません。
しかも皆、2名でとか4名でと、さすがに一人でお店に来ているのは俺だけです。
 
「うわぁ、今一人でこのお店に来てる俺って、結構浮いちゃってるんだろうなぁ」
 
 
ええ、もちろん(笑)
 
 
俺は旅行する前から、この辺りで獲れる地魚料理をすごく楽しみにしていました。
スペインの中でもいろんな美味しい料理はありますが、
スペイン国内でとりわけ「グルメな町」と言われているのが、このサンセバスチャンとバルセロナ。
 
そのサンセバスチャンで食べた魚料理は、
バルセロナとは比べ物にならない、今まで食べたことのないような美味しさでした。
魚の素材自体の味や、身の締まり具合が、地中海で獲れた魚と違います。
地中海と比べると、この地方に面しているカンタブリア海の方が水温が低いようで、その分身の締まり方が違うんだよと教わりました。
 
そして俺は、あまり飲めないのにもかかわらずワインを丸まるボトルで頼むから後で大変なことになってしまうのですが、この際だから気にせず白ワインをボトルで頼んで、全部飲み干しました
 
というか無理して飲みました(笑)
 
思い切り酔ってしまい途中フラフラになりながらも、
帰り道に公衆電話からケイゴさんのところに電話をかけました。
 
「鉄也です。どうもありがとうございました!
おかげでこっちに来てから、いろいろと美味しいものを食べることができました!」
 
「まぁ、ゆっくり楽しんでおいでよ」
 
と、相変わらず電話口でクールなケイゴさんの声が、なぜか妙に心地良かったですね。
そしてその日はそのまままっすぐにペンションへ帰ります。
 
旅の疲れもあってか、そのまま眠ってしまいました。
 
いや、単に酔っていただけです(笑)
 
翌日、昼間はまた同じくレストラン街を回り、市内を歩き回ります。
夏なので、海岸には人がいっぱいいて、日焼けをしたり泳いだりしています。
「その海岸の近くに、有名なレストランがあるよ」と、ペンションのオーナー夫婦に聞いていたので、お昼にそのお店へ行って早速ランチメニューを注文します。
 
やはり地元の人が紹介してくれるだけあって、
ランチメニューにもかかわらずかなり美味しい。
 
さてさて。
その日の晩は「アルサーク」を予約していたので、一度ペンションに戻りシャワーを浴びて、ちょっと服装をきれいにしてから向かいます。
チノパンにポロシャツでしたけど(笑)
 
予約の時間より少し早くアルサークに着きました。
道わかんないからタクシーに乗って行ったので、予想より早くなったのです。
 
お店の外観に圧倒されてしまい、ちょっとだけビビッてました。
あの緊張の仕方は、近年稀に見る緊張っぷりです。
 
だって、
こういうお店に来るの、生まれて初めてなんですもの(笑)
 

さてさて。

これからどうなるんだろ?

どんなことが俺を待ってるのかな?


★★★つづく★★★ 
2009/09/23 (Wed)
それから二日後、俺が住むであろうマンションの下見をさせてもらうために、そのマンションの向かいの一階にあるバルで待ち合わせをしました。
 
そこは、サグラダファミリアから歩いて3分もしないところにありました。
 
バルセロナの市内にはいろんな道が交差していて、道毎に名前が付いているので
「この道とこの道が交差するところに行ってください」と運転手に話せば、大体の位置を把握できて、タクシーに行き先をお願いするにも結構楽です。
 
バルセロナ市内の「マリーナ通りとコルセガ通り」がちょうど交差するところに、そのマンションはありました。
 
 
 
それはさておき。
大抵スペイン人は時間にルーズで、待ち合わせの時間に十分十五分は平気で遅れてきます。
 
「ごめんごめん!ちょっと仕込みが終わらなくて」
 
「ううん、大丈夫だよ」
 
エクトールと一緒に来た彼の友人のジョルディも、彼と同じ店で働いているコックです。
 
とりあえず三人でお茶して話でもしようと、待ち合わせしたバルに残って色々と話をすることになりました。
 
 
――彼ら二人と、まさかこの日から長い付き合いになるとは――
 
 
このマンションには、最初の借主のエリというスペイン人の大学生の女の子がいました。
彼女は、スペインの北にある、ほとんど国境に近い山の中の「ヴァガ」という村に実家があるので、大学に通うためにここにマンションを借りたそうです。
 
エクトールの親もその村に別荘を持っていて、そこでエクトールの妹とエリが仲良くなって… というつながりがあるらしく、エクトールの妹からエリを紹介してもらって今に至っているとのこと。
 
他にそのマンションには、アメリカから留学に来ていた女の子が一人いましたが、俺とはほとんど入れ違いで、俺が来る頃にはアメリカに帰ると言っていたので絡みはほとんどありませんでした。
その二人と、エクトールの現在三人でシェアしていました。
 
 
 
「なんか怪しいなぁ」
 
まだ知り合ったばかりなのに、なぜか彼らは俺に対して妙に馴れ馴れしいんです。
しかも、彼ら二人は妙に仲が良さそうに見えるんです。
 
「おいおい、この二人はひょっとしてゲイなのか!?」
 
そう思ったら、一瞬だけ引きました(笑)
ですが、そういうことは直接聞くことでもないし、別にどうでもいいことでしたが、
 
「俺にだけはちょっかいは出すなよ!俺は女性のほうが好きなんだから!!」
 
ということだけ考えながら、
最初のスペイン旅行で見た、あの「シッチェスの海岸の光景」を思い出していました(笑)
 
とりあえずそんなことは気にしないようにして、俺なりのスペイン語で自己紹介した後に部屋を見せてもらいます。
 
ロビーを通り、エレベーターに乗って、マンションの六階に上がります。
でも、日本で言うとそこは「八階」になります。
なぜかと言うと、スペインでは建物の入り口、つまり日本で言う一階を「ゼロ階」と表現します。しかもその上は「Entresuelo(エントレスエロ、中二階)」となっていて、その次の階から日本でなら三階のところから「一階」と数え始めるため、六階とは言えど日本で言えば八階になるわけです。
 
俺の部屋になるところは、ドアを開けて家に入ってすぐ右側、四畳半くらいの小さな部屋でした。そこにはベッドと机だけ一つずつ置いてありました。
その部屋は建物の「中庭」に面しているため、光はほとんど当たりません。
が、そんな文句は言う必要もありません。
 
「まぁ、部屋小さいけどこんなもんでしょ? 家賃も安いし」
 
しかし、その後にすごいものを発見。
 
マンションの入り口からサロンにつながる廊下に、
無造作に置かれたスーパーのビニール袋、袋、
 
とにかくどこを見ても袋だらけ(笑)
 
これは明らかに、「ごみ袋」です。
一つ二つならまだしも、八袋くらい壁側に綺麗に並んでいましたよ。
 
それを見てびっくりしている俺に気が付いたのか、
「実はコレクションしてるんだよ」と、
苦笑いしながらエクトールが言い訳交じりに俺に言ってます。
 
 
 
 
いや、そんなわけないって(笑)
 
そしてサロンにあるバルコニーに出てみます。
向かいや隣、斜め前のマンションのバルコニーが丸見えです。
 
洗濯物を取り込んでいるおばさんがいたり、
 
バルコニーに椅子を出して座って日向に当たりながら本を読んでいるおじさんがいたり、
 
正面のちょこっとだけですが、サグラダファミリアが見えます。
 
 
「へぇ、こういうところに住めるのも悪くないなぁ!!」
 
 
なんだか地元の人間になった気分でした。
今まで居候していたケイゴさんの家はとても静かな住宅街にあった一軒家だったので、
今までと全く違う環境に新鮮さを覚えましたね。
 
もともと日本で団地育ちの俺には、
こういうマンション暮らしのほうが、住み易く性に合っていると思いましたし。
 
 
そしてその後、
エクトールと家賃の支払いの話などを済ませ、8月にこのマンションに引っ越すことに決めました。
とりあえず秋まではうちら三人しかいここに住む人がいないから
「家賃を三で割るということになるけど、三人で負担するのは秋まで」という話でしたが、とにかく家賃が安いので別に三人で割ろうが四人で割ろうがそんなに気になりませんでした。
 
実際8月は俺一人しかいないし、だいぶ気楽に過ごせそうだ。
 
「8月は皆この家にいないから。夏休みで皆実家に帰るんだよね。だから20日くらいまでは一人でここに住んでゆっくりしてなよ!」
と、エクトール。
 
「うん、俺も旅行に行くつもりだからね。旅行から帰ったら連絡するよ!」
 
この時間を利用して、今度はスペインの北にあるサンセバスチャンに行ってみようと考えていました。
ジャン・ポールの店も夏はクローズして休むと聞いていたので、夏休みの明ける9月から行きますと伝えてあり、その間俺はほとんど丸一ヶ月何にもすることがないから、その間に食べ歩きを旅行を予定していたのです。
 
その旅行で、
サンセバスチャンにあるミシュラン三ツ星レストラン「Arzak(アルサーク)」にも食べに行こうと思っていました。
なんと、偶然にもその店で働いている二番シェフと、俺が通っている語学学校の担任の先生が友達だったんです。
俺の話はしておいてくれると担任の先生は言ってくれたので、行ったことのないところにまた旅行しますが大分気が楽になりましたね。
 
「バレンシアに行ったときみたいに、警察に止められなければいいや」
 
それぐらいにしか考えていませんでした。
 
すでに二度も警察に止められてるもので(笑)
 
 
 
「いよいよ一人立ちみたいになってきたなぁ、俺はこれからどうなるんだろ?」
 
ついにケイゴさんのところを離れて、知り合いのいない環境に飛び込むことになりました。
しかも今回は、日本人とも全くコンタクトの取れない環境です。
もちろんこれからは日本語なんて全く話せなくなってしまいます。
ですが、こういう環境に自分をある程度追い込んだほうが危機感も生まれるし、自分にとっては好都合と、一人でワクワクしていたのも事実です。
 
その日カルデデウに帰る電車の中で、俺は妙に気分が良かったのを覚えています。
 
小さい頃からチャレンジ精神旺盛だった俺にとって、
これからの新しい生活はまさにうってつけの環境でした。
 
 
 
気が付けば、
少しスペイン語が話せるようになって、
環境が少しずつ変わってきて、
生活もちょっとずつ楽しくなり始めて。
 
 

二十三歳でスペインに来た俺は、
 
今年、あっという間に二十六歳になろうとしていました。


★★★つづく★★★
 
2009/09/14 (Mon)
それとは平行して、語学学校にも通って勉強を続けていました。
 
ここでは、スペイン語の他にスペイン人がいろんな言語を勉強しているクラスがあります。英語、フランス語、ドイツ語、アラビア語、韓国語、中国語・・・。中には日本語のクラスもあり、一年もその学校に通っていると、自然と、その学校で日本語を勉強しているスペイン人達と学校の中にあるバルで知り合うようになりました。
 
彼らは日本語の教科書を開いて勉強しているので「難しいですか?」なんてこっちから声を掛けたり、向こうからいきなり日本語で「こんにちは!」なんて言われたり。
日本語とスペイン語を織り交ぜての会話というのは、なんだか不思議な感じです。
 
 
 
そんなある日
 
その学校内にあったバルにて
 
数年ぶりに俺は、ある女性に「一目惚れ」しました。
 
 
「数年ぶり」を「○年振り」と言ってしまうと、
ひょっとしたらどこかで逆算されてしまう可能性があるので
あえてここでは触れません(笑)
 
 
その、俺が「一目惚れ」してしまった女性とは、
同じくその学校で日本語を勉強していた、タイスという子。
たまたま俺はその日、彼女と同じクラスで勉強しているスペイン人の友達と一緒に勉強するために学校のバルで待ち合わせをしていたら、ばったり彼女に出くわしたのです。
 
その瞬間、
 
頭の中で何かのドラマの主題歌が流れていたような(笑)
 
 
 
「心臓が口から出そう」とは、まさにこのことです。
 
 
 
ホント、「数年振り」です(笑)
 
 
「でも、今はまだろくに言葉も話せないし、口説くのはおろかデートにも誘えない!!」
と、
 
知り合ったばかりで、デートにだって誘えるかも全く分からないのに、
一人で勝手な妄想始めちゃってるし(笑)
 
 
とりあえず彼女とは何度か学校のバルで会って顔見知りになってから、
「一緒に交換勉強しませんか?」というところまではこぎつけていたので、
とりあえずは俺が「スペイン語で彼女に手紙を書き」、
彼女が俺に「日本語で手紙を書き」、
それを交換して、その後学校のバルで会い、
お互いの手紙を直して一緒に勉強したりしていました。
 
まるで「交換日記」です。
 
それはもう、毎日ドキドキです(笑)
それだけでもすごく楽しかったんですよね。
 
 
あの時は間違いなく「留学生活」を謳歌していたであろう店主です。
 
 
はい。
「純粋」というか、「単純」です(笑)
 
もちろん、お互いにろくに言葉も使えなかったので、
簡単な自己紹介とか、世間話とか、手紙の内容はそれくらい質素なものでしたよ。
それに俺は当時、
女性と付き合えるほどの時間やお金の余裕なんて全くありませんでしたから。
 
「貧乏留学生活」なんて送っていたら、デートなんてできませんって。
 
 
詳しくはまたいつかお話しします(笑)
 
 
 
そんな学生生活を送っていたある日、
日本語を勉強していたスペイン人の友達の中の一人のイグナシオに、一人の女性を紹介されました。
 
「テツ、ここで日本語を勉強している人がいてさ、その人、バルセロナでコックをしている旦那さんと一緒にレストランをやってるんだよ。良かったら今度その店に一度行ってみたら? 紹介してあげるよ」
 
「へぇ、そんな人もいるんだ? うんうん、行ってみるから場所教えてよ!」
 
もちろん、ジャン・ポールのお店にも働きに行きたかったのでしたが、
「ひょっとしたら、こっちで働ける?」と、別の「可能性」を探るつもりで
イグナシオに書いてもらった、かなり下手くそで見にくい地図(イグナシオごめん!笑)を片手に数日後、そのレストラン「Folquer(フォルケー)」へ行きました。
 
イグナシオが前もってその女性に俺のことを話してくれていたみたいなので、店に入るとその女性、アグラエはすぐに判ってくれたみたいで俺を笑顔で迎えてくれました。
 
「ようこそ、と、初めましてだね。えっと、テツだっけ? よろしく!」
 
「こちらこそ! 今日はご飯食べに来たんだけど、大丈夫?」
 
その店のランチメニューを頼んで食べ終わった後、
アグラエが俺のいる席に着いて、俺と一緒に少しおしゃべりです。
当時「三年生」で勉強していたとはいえ、まだまだ俺のスペイン語は拙かったんですけど、
それなりに「おしゃべり」できていたのかなぁとは思います。
 
「実はね、今、俺はカルデデウにある日本人がやっているレストランで働いてるんだけど、今度グラノジェールスにある別のレストランに勉強に行くことになったんだ。今はその日本人の家族の家に住んでいるから、これからはその家を出て、どこかに住むところを探さないといけないんだよ」
 
「あら、それならちょうどいいわ!」
 
「え?」
 
何のことだかさっぱり分からなかったのですが、すぐに彼女は、
「ちょっと待ってて! 今、この店に働いてるコックで、ルームシェアできる人を探している人がいるから、今連れてくるから紹介してあげるね!」
 
 
思いがけない言葉でした。
 
 
アグラエは俺にそう言うとすぐに調理場に向かい、しばらくすると調理場から一人、
俺よりかなり太目の、上下白のコックコートを着た一人のスペイン人が出てきました。
 
「初めまして、エクトールだよ。よろしく」
 
彼はそう言いながら、俺に握手を求めます。
太りすぎで息荒いんですけど(笑)
 
「テツです、よろしく」
 
そして、さっきアグラエに話したことを一から繰り返して彼に説明します。
すると彼は、
「それなら、今俺が住んでいるところに空き部屋があるから、そこに来るといいよ!」
 
なんでも、彼が住んでいるマンションに部屋が四つあって、そこを三人でシェアをしていて、一部屋余っているからその部屋に来ないか?ということ。
家賃も四人で割るから、一人当たりの金額なんて20000ペセタにも満たなかったのです。当時、日本円にすると一万五千円くらいか、それ以下ですね。
 
「よし。それなら今度、その部屋を見せてあげるよ!」
 
ゼーゼーと、荒い息で彼は話し続けます。
 
後日、改めてその部屋を見せてもらう約束をして
俺は「フォルケー」を後にしました。
 
 
あの日の俺は、
「彼との関わりがこれからずっと続く」とは、全く想像もできませんでした。
 
 
 
あの時から俺の運命を変えたと言ってもいい「彼との劇的な出会い」でしたが、
当時の俺は当然そんなことを知る由もなく、
 



タイスに書く手紙のことばかり考えていました(笑) 



★★★つづく★★★
 
 
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