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英ちゃんがまだスペインに戻ってくる前、
ついに待ちに待った「セクション移動」があり、
晴れて俺は魚料理を担当することになりました。
英ちゃんが帰って来るまでの間、コール場には新しく入ったスペイン人コックが引き継ぎでやることになったのですが、
前にも話しましたが、そんなに簡単な事ではありませんでした。
エドゥアルドもそれを見兼ねて、「テツ、SUSHIを作ってくれないか?」と頼んできたのですが、魚料理のセクションを担当しながらの掛け持ちは、誰がどう見ても明らかに不可能ですし、他の人だってそんなことやっていません。
だって無理なんだもん(笑)
そして、考えた末に出た答えは、
「SUSHIを教えながら魚料理も担当する」という、かなり無茶なことに。
まぁ、英ちゃんが帰って来るまでの間だけだし、なんとかなるでしょ?
ところが、なんとかなりません(笑)
店はどんどん忙しくなってきたのでコックを何人も雇うようになりましたが、それと同時にコックが多いからとシェフも安心して新メニューを増やし始めるので、暇になるどころかますます忙しくなります。
魚のセクションだけで持ち料理が
・ アラカルトの魚料理八品(だけど魚を掃除するのは仕込み場の担当です)
・ ランチのメインで一品
・ さらに温前菜の鰯のフリットもツーオーダーで俺がやることになって、
・ それにコール場の寿司。こちらは教えるだけですけど、教える時間ってどこに!?
・ 八品の魚料理には、ソースと付け合わせの野菜がそれぞれにあります。
レストランが港のすぐ近くにあるということで、この店の客の三分の二が、メインに魚料理をチョイスします。
営業が始まると、魚セクションの仕事はこんな感じです。
・オーダーが入った順番に、引き出し式の冷蔵庫から魚を出し、バットに並べ、一気に魚に味をします(この間、わずか5~10秒です)。
・味をつけた魚をどんどん鉄板の上に乗せ、焼き色を付けてから一度取り出し、あとはオーダーの順番にオーブンで火を入れてお皿に盛り、付け合せとソースをかけて仕上げていく
という流れです。
およそ80cm×60cmの鉄板の一面、魚だらけです。
一度に20人分くらいの魚のフィレが鉄板に。
隣では肉料理の担当が同じ鉄板でお肉を焼くのですが、
まさに「陣取りゲーム」。
「お前!ここから先は魚を焼くから使わないでくれよ!!」
鉄板のスペースの割合は
「五分の四が魚、五分の一が肉」(笑)
だって肉料理のオーダーは少ないんだもん。
それはもう、
「隣の畑」が良く見えて仕方がなかった頃です(笑)
そして、味を付けた魚を順番に並べていくうちに、最初に焼いた魚に焼き色が付いていい感じになり、早く返さないと魚が焦げちゃいます。
さらには途中で「鰯のフリット」が入ると、鉄板があるところからフライヤーのある場所へ小走りで移動しないといけません。
持ち場(鉄板)を離れると、ちょっと大変なことになります(笑)
そして、「220名の三分の二」の魚料理のオーダー。
=約150名は魚料理をチョイス、という計算になります。
ソースや付け合わせの野菜などは、午前中にいっぱい仕込んだものがその日のうちに使い切ってしまい、翌日またすぐに仕込まないといけない状態です。
そんな毎日だったので、このセクションでも中抜けはできず、
夜も2時まで残って、エクトールと口げんかしながら「付け合せ用のオリーブ」の種取りをやっていたことを思い出します。
そういった地味な仕込みは、あの営業中にはとてもとても(笑)
「『出来ない』と言うのがとてもくやしいから、何が何でも仕込んでやる」
と意気込むと、シェフからすると
「なんだ。できるならもっと魚料理をアレンジしようか」
となり、気が付くとびっくりするくらいの仕込みの量になっていました。
ランチで1品
アラカルトのソースは8種類
付け合せも8種類
魚の上に乗せる飾りも、8種類
で、約150名分。
10時出勤で13時からランチ営業が始まりますが、
12時から従業員の食事です。
2時間で全てを仕込まないといけません。
アハハ(笑)
もう笑うしかありませんよね。
だから、営業前の食事は調理場で立ち食いして、午後の中抜けもせず、ひたすら残って仕込みですよ。
「手が遅いから間に合わない」のではなく、
「仕込む量が尋常ではなく、というか異常」というのが正解です。
だけどシェフには、何が何でも「できません」とは言いたくなかったんです。
こうして当時を思い出話をしていると、なんだか少し爽やかに聞こえるかもしれませんが、
要は、
「ただの頑固なガキんちょ」だっただけです(笑)
冬になる前に、やっと英ちゃんがスペインに戻ってきました。
日本で学生ビザを取って、少しの間バイトをしていたみたいです。
ビザを取りに帰っただけと思っていたので、「ひょっとしたら、このまま帰ってこないのかな?」そうやってエクトールと話していましたが、そこまで心配することはなかったようです。
しかしうちらにとっては、3人と2人でシェアするのでは一人当たりの家賃の負担額が大きく変わって生活費に大きく響いてしまうので、とにかくもう一人誰かに来て欲しかったため、そんな心配をしていたのです。
だって、
うちらが毎月遊べる金額が変わってきますから。
まさに「死活問題」です(笑)
そして、英ちゃんは初めに俺の働いている魚場に一緒に入って手伝ってもらい、何日かして店に慣れたころに彼はコール場へ入り、コール場の仕事と共に寿司を作ることになりました。
当然彼が作る「寿司」は、俺の“なんちゃってSUSHI”とは比べ物にならないくらいに上手で、彼の仕事の手際も良く、すぐにうちらは打ち解けて仲良くなります。
彼は今でも、俺が尊敬するコックの一人です。
この世界、というよりどの仕事にでも言えるのが、
「お互いに息の合う仕事をしていれば、相手の様子など伺うことなどせずにすぐに打ち解けて仲良くなれる」ということ。
彼とは職場でもプライベートでもほとんど一緒だったのにもかかわらず、お互いに海外生活が長いためか、日本特有の「遠慮のし合い」などはほとんどなく、何でも言いたいことは言って、やりたいようにやって、気兼ねなく生活していました。
相性が良かったんでしょうね。
もちろん、親しい仲でもお互いに礼儀だけは忘れません。
そこをおろそかにすると、一発で関係がダメになっちゃいますから。
たまに彼と休みが一緒になると、「東京屋」で食料を買ってきて家で日本食をよく作って食べた。カレーだったり、丼ものだったり普通の日本食なのですが、一人で食べるよりは当然美味しいですよね。
職場で「同じ釜の飯」は誰とでも食べられますが、
「家でまで同じ釜の飯を食べる」という経験はそうなかなかできないでしょう。
ちょっとした自慢です(笑)
もちろん、休みの日の食事はいつも家で作るわけではなく、
バルセロナにある「小雪」という日本食屋によく行きました。
ご飯食べたあとは、ビンゴゲームをしに近くの会場まで行く
というお決まりのお休みスケジュール(笑)
ビンゴで遊ぶお金が無くなるとまっすぐ家に帰っていましたが、これでビンゴが当たってしまうと、夜更かしですよ(笑)
ルームシェアをして同じ職場でと、これが日本ならいつも一緒にいるとホモかと疑われそうですが、そういうことではなく、
逆に言えばそれだけ仲が良かったし、職場では俺の良きライバルでもありました。
彼は、俺以上に職人気質なところがあります。
俺は自分でもある程度「細かい」とは思っていても、
「美味しいものができればOK!!」的な柔らかい部分もあるので、彼のことがたまに頭が堅いなと感じることもありましたが、逆にいい刺激になったし、彼の仕事を真似てみたりもしました。
そんなある日、彼にこんなことを言われました。
「てっちゃんと一緒だったら、二人で魚料理250名分の仕事も楽勝だよ!」
嬉しい褒め言葉ですが、
いや、絶対に無理だって(笑)
――今まで全く違った環境で学んで来た二人が、
お互いが今まで勉強してきたこと、持っているものを隠さずに教え合って、吸収して、お互いに成長する――
そんな理想的な関係でした。
同じ仕事をしている仲間でも、普通の友達のようにものすごく仲が良くなるという例はそんなにないと思うので、この「不思議な縁」をこれからもずっと大事にしていきたいですね。
いつかまた一緒に仕事したいなぁ。
★★★つづく★★★