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さて。
俺には助手なんて付かず、皆で黙々と二日間ほど仕込みます。
そして、「ルックラ」のオープン初日。
この店の出資者約三十名を集めてのプレオープンパーティーがありました。
なんとその同じ日に、バルセロナ近郊の料理学校から研修生が三名やってきたのです。
そのうちの一人のベネズエラ出身の女の子、タティアナが助手として付いてくれて、俺は彼女と一緒に仕事をすることになりました。
「助かった!とりあえずは一人じゃないよ!!」
そんな話は全く聞いていなかったので、聞いた瞬間飛び上がりそうなくらい喜びました(笑)
でも、やっぱり研修生です。
実践は今までに一度もしたことのないような人と仕事をするのは、俺にとって相当堪えます。
ゆっくり教えている時間なんて全然ないんですから。
しかも、各セクションで担当するアラカルト料理の数は大体八品ずつくらいなのですが、
その「八品」を仕込むと、お店は250名も入るようなレストランですから、その仕込みは自然と膨大な量に膨れ上がります。
しかも、
去年ジョアンに言われていた「日本料理」とは、一品だけでしたが「寿司」をやることになったんです。
だから俺は「コール場」を任されたってワケです。
「だから、寿司は俺の分野じゃないのに~・・・」
でも、言われた以上やるしかありません。
とりあえず、日本のホテル時代の上司に頼んで送ってもらった日本料理の本を頼りに、バルセロナにある日本食料品店に売っているものをかき集めて、「巻き寿司、手毬寿司、押し寿司」の三種類を作ることに。
握りなんてやったことも無い俺が、恥ずかしくて握ることなんてできませんから。
っていうか、
「この三種類を作ってました」と、このブログで書くだけでも相当恥ずかしいのに(笑)
とにかく、仕込みが全く追いつかないので、俺が作る「SUSHI」は、十五人前まで出して売り切れです。
あ、
俺が作るものは「寿司」ではなく「SUSHI」です。
皆さん、何故かお分かりですよね(笑)
話は戻って、十五人前までです。
「SUSHI」の他に七品も全部一人で仕込むのに、十五人前以上仕込める余裕なんてありません。
しかも昼には、そのビルのオフィスで働いている人たちがランチを食べに来ます。
そうです。
アラカルト八品と別に、ランチメニューです。
ランチメニューは「前菜」「メイン」「デザート」が三品ずつあり、そこから一品ずつチョイスしてもらうという感じです。
その「前菜三品」のうち、温製前菜は一品だけ。
はい。
なんと俺は二品も冷製前菜を仕込まなければいけなかったのです。
寺門、計十品仕込みます。
お店は250席あります。
全員が冷製前菜を頼むとは限りませんが、
少なくても100人分は出ますかね?
ランチの時間帯に、アラカルト料理の注文も入ります。
これを一人でさばくには、どれくらい仕込んで良いのかまったく見当がつきません。
研修生はあくまで研修生。
何にも任せられません。
さて、どうしましょ(笑)
開店初日のお客さんの入りは「ぼちぼち」という感じでスタートし、
三日目くらいから次第にお客さんは押し寄せるように入り出して、毎日コンスタントに昼200名、夜220名の日々が続きます。
「オープン景気」というやつです。
お客さんたちは最初に前菜を頼んで、その後にメイン、そしてデザート。
同業者の人ならば、これを読んでいて「おおまかな仕込み」と「お客さん」の数を想像していただけるでしょう。
しかも、既製品を一切使わずにこの仕込みですよ。
頭の中の考え方を根本から変えていかないと、この仕込みと向き合うことは到底できません(笑)
前にも話しましたが、スペインの夕食は遅い時間に食べます。
20時半から夜営業は始まりますが、大抵21時45分くらいまでは五組も入らず、全てのお客さんは22時から23時までの一時間に、200名くらい一気に集中して入ってくるんです。
これも、同業者の方ならご想像いただけるはずです。
無理でしょこんなの!!(笑)
そして、オーダーを読むのはシェフ。
これがまた相当早口で、そのオーダーを伝票を見て確認なんてしている時間はありません。
俺だけならともかく、他のコックにも聞こえづらかったらしいからどれだけ早口だったんだか。
「Oído Cocina, marcha vale...、Oído?(オーダー入ります、……、聞こえたか?)」
「¡ ¡Oído Chef!!(ハイ、シェフ!!)」
フランス語では「ウィ シェフ」ですかね。
こんな声と同時に各セクションでは、調理場では鍋やフライパンや皿、いろんなものがぶつかる音だけが鳴り響きます。
俺はまず、オーダーを忘れないように、オーダーが入ったと同時にその料理に使うお皿を作業台の上に乗せます。
そこからダッシュで料理を盛り始めるワケです。
あっという間に「60cm×3m」の作業台はお皿で埋め尽くされます。
全部違う種類のお皿で良かった(笑)
もちろん、誰も喋ってる余裕なんてありません。
ひたすら料理を作り続けます。
次第に皆の「Oído!!」という声のタイミングも揃い始めてきます。
「7人の声が一度に揃う」。
実はこれ、結構カッコいいんです。
あの声が揃う感覚は、今思い出しても結構感動します。
というか、知らない間に皆で「タイミングを皆と合わせよう」と思わないと、ああもピッタリと声が揃うわけありません。
みんな日本人みたい(笑)
しかしさすが皆、プロでやっているだけあって仕事の手際が良いです。
だけどとにかくこの量は半端じゃないです。
「今までこんな店で働いたこと無い」と、ほとんどのコックが口にしていました。
もちろん俺だって無いよ(笑)
★★★つづく★★★