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――とにかく、シェフが言ったオーダーの料理を順番に終わらせていく――
気が付けば皆、一つのミスもなく全部頭に各自のオーダーが入っていたから大したものだったけど、体力的には相当やられていましたね。
営業時間中はとてつもない数のお客さんをこなし、そのために睡眠時間まで削ってみんな必死になって仕込んでましたから。
しかし、何度も何度も言いますが、このお客さんの量は半端じゃありません。
ホントに仕込みが全然間に合わないんですよ。
朝に作った「2~3日は足りるであろう仕込み」をしても、
「あれ?」という感じで全てをその日のうちに全部使い切ってしまい、すぐに翌日また同じものを仕込まないといけない状況です。
中には、営業途中で仕込まないと間に合わないようなものもあったり。
こんなの初めて(笑)
そのうち、通常なら毎朝10時に出勤するはずが、
気が付けばみんな朝8時くらいから入って仕込みを始め、
13時からランチ営業が始まります。
言うまでもなく、ランチ営業で一度調理場はぐちゃぐちゃになり、
16時から20時まで抜けるはずの中抜けもできずそのまま仕込み続け夜の営業に入り、
もう一度調理場はぐちゃぐちゃ(笑)
そしてラストオーダーが0時で、その後片付けが終わって帰れるのは夜中の1時。
その時間で帰れればまだ良い方で、夜中の3時まで残る日もありましたよ。
一日の労働時間は、
「8時間ってなに?」って感じで、毎日「17~18時間」。
その間、ほぼノンストップですよ!?
タバコだけが唯一の俺の「癒しグッズ」でしたね(笑)
「スペインの昼寝の習慣はどこへやら?」
そんなもの、ここには存在しません。
おまけに、皆の休みだって、まとめて一度に全員が休めるわけが無いので、
ルックラがオープンして何日か経ってから順番に休みを取り始めたのですが、
エクトールと俺は他の皆が休んだ後、つまり最後まで休みをもらえないんです。
これも、「うちらはシェフと一番長く居るから」でしょうね。
ざっと三週間近くそんな生活が続き、ちょっと手が空いた時にタバコを吸っていると、俺は吸ったまま眠ってしまうし、エクトールは吸ったままいびきをかく。
そんな日が続きました。
しつこいようですが、ホントに忙しかったんですって。
「忙しい」という枠を通り越し、「ワケがわからない」状態です。
そして、そんなハードな日々が一ヶ月くらい続いたある日のこと。
とうとう我慢できなくなって俺がキレちゃいました(笑)
「皆と同じ時間働いて、なんで俺だけ給料が50000ペセタも違うんだよ!! こんな店、もう辞めるよ!」
初日で辞めちゃったカロリーナとフランセスクの気持ちが、今になってやっと100%解った気がしました(笑)
みんなの前で思い切り大声出してキレちゃったので、調理場が一瞬静まり返りました。
「ちょっと待てよ!落ち着けよ!テツ。俺がシェフに話すから!」
と、エドゥが俺に近寄ります。
「そんなこと無理だろ? いいよ!もうココを辞めて他の店探すから!!」
こんなの、「料理修行」どころの話ではありません。
「戦場」をはるかに通り越し、「未知の世界」へ突入していましたから。
今のところ、あそこまで忙しいお店には日本でも出会っていません。
いや、
出会わないほうが身のためです(笑)
するとなんと次の日、
俺の給料が「他のコックと同じ額をもらえるようになるから」とエドゥに言われました。
シェフを通してオーナーに話をしてもらえたらしいのです。
もちろん、給料が上がって当たり前です。
だって、皆と同じ量の仕事を、皆と同じように手際良くやってるんですよ?
仮に俺が「全く仕事ができない使えないコックさん」だったら、そんな事は口が曲がっても絶対に言えませんが、自慢じゃありませんが毎日怒られもせずに黙々と自分の仕事はきっちりとやっていましたからね。
もちろん「SUSHI」だってきっちりとやっていましたよ、俺なりに(笑)
「たとえ給料が安くても、もっと落ち着いて勉強できるところがあるはずだよ」
とさえ思っていましたから、ホントにこの店を辞めてやろうと思ってました。
ですが事態は、「TETSU、賃金50000ペセタUP」で終止符。
俺の気分も少しは晴れましたね。
単純ですから(笑)
とにかく、
「この店での思い出は?」と聞かれても、すぐに出てくる答えは、
「今までに経験したことがないくらい忙しかった」に尽きます。
ストレスのせいか、両脛に蕁麻疹も出ました。
それがまた痒くて、辛くて。
実は、日本を出発してからこの時期くらいまで、ほぼ毎日地道にメモ帳に日記をつけていたんですよ。
「どこに行った」とか、「誰と知り合った」とか、「何を食べた」とか、他愛ない毎日の軽いことをいつも書いていたのですが、この時期になってあまりの忙しさに全く日記が書けなくなってしまったのです。
続きの日記が書けなくなってしまったのは少し残念ですが、
記憶だけはしっかりと焼きついてますね。
だけど実は結構良い思い出だったりするんです(笑)
さて。
「思い出」はまだまだ続きます。
次第に皆が仕事に慣れてくると、シェフは「新メニューをやろう!」と突然言い出し、勝手に試作を始めて、
「はい、テツ。これね、明日から」
「は?」
新メニューに目をやる暇なんてどこにもありませんが、シェフの命令です。
「Vale(OK)」と答えるしかありません。
もちろん俺だけにではなく、他のセクションの皆にも同じように次々に新メニューを教えていました。
それでさらにぐちゃぐちゃです(笑)
とにかく時間も過ぎるのも忘れるくらいの忙しさで、やっと店の上層部にも分かってきたのか、自然とコックを何人か採用するようになったのですが、
やはりこの忙しさ、尋常ではなかったんでしょうね。
ほとんどのコックが三日も持たずに、バックレます。
「あれ? 昨日の奴は!? 来てないよな。またバックレかよ!?」
「この店、もう何人くらい人が出入りしたんだろうなぁ」
新入りの名前も顔もろくに覚えられません。
すでに「二十数人?」というくらいの人が、一年の間に入っては「すぐに」辞めていきました。
そのうち皆、そんな状況に慣れてくると、
「たぶん昨日の奴はもう来ないから、お前がこっちのセクションに入っといて」
というエドゥからの会話が「朝の挨拶」みたいになってました(笑)
とにかく、皆であきれた顔をしながら毎日笑うしかなかったんです。
そんな時期、以前お話した「フォルケー」というレストランでエクトールと一緒に働いていたジョルディも、エクトールのススメでルックラへ働きに来ました。
彼は辞めずにそのままこの店に残りました。
だけど彼は
「なんだこの店?」と毎日のように言ってましたし、
エクトールに向かって
「エクトール!お前は俺を騙した!!」とまで言ってました。
一体エクトールはジョルディに何と言って誘ったんでしょうね?
ハハハ。
このお店に働きに来たら最後です。
「アリ地獄」へようこそ(笑)
★★★つづく★★★