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スペインではもう秋が近づいていましたが、日差しがまだ強かったある日のこと。
俺がいつも日本食が食べたくなったときに買出しに行っていた、そして店の材料でもお世話になっていた日本食料品店「東京屋」のタカハシさんが、いつものように配達に来たときにこんな話を切り出しました。
「てっちゃん、スペイン料理を勉強したいってニューヨークから来た男の子がいるんだけど、ここのシェフに紹介してもらえないかなぁ?」
「あ、いいですよ? それじゃ今度ここに来てもらってくださいよ!」
早速シェフに説明して話を聞いてもらうことにして、翌日タカハシさんに彼を連れて来てもらいました。
「てっちゃん、この人が昨日話した人。坂部英一君ね」
「どうも。」
なんだかそっけないなこの人(笑)
そんな感じの軽い会釈をして、「とりあえず厨房で話すのもなんだから外に行こうよ」と、客席に彼を案内して少しだけ話すことに。
仕込みがてんこ盛りなので長い間話してもいられません(笑)
「・・・なんですよ」
「・・・そうなんですか。」
なんだかお互いに敬語で話すのも堅苦しいので、「敬語は使わないでいいよ!」と彼に話しかけます。
そして、いろいろと話を聞くと、
彼は名古屋出身で、俺より一つ年上のコックさんでした。
今までニューヨークで料理の仕事をしていたらしく、ニューヨークの寿司屋でも働いていたらしいんです。
おっと。
その瞬間思いましたよ。
ひらめきましたよ。
「良かった!!これで俺は違うセクションに行ける!」
でも、それより彼に俺の作ってる“なんちゃって寿司”は恥ずかしいから見られたくないよ!!(笑)
彼曰く、「やっぱり一度、ヨーロッパで仕事がしてみたかった」そうで、スペインに来るまでにイタリアやフランスにも職を求め歩いたらしいのですが、残念ながらどこでも「門前払い」だったようです。
そんなこんなでバルセロナへたどり着き、彼が泊まっていた日本人経営のペンションで東京屋を紹介してもらい、タカハシさんに話を持ちかけたそうだ。
「このお店、何席あるのかな?」
その辺は解りやすく丁寧に「250席だよ」と教えておきました(笑)
もちろん彼は、目を丸くして驚いてましたね。
あの光景、今でも目に焼きついてます。
「に、にひゃくごじゅう!?」
はい。
アリ地獄へようこそ(笑)
とにかく、普通の日本人には想像できない数です。
「よく皆であの数をこなせたなぁ」と今でも思います。
普通の人でも3日もちませんから。
そして、
「一応、前のお店のシェフに書いてもらった紹介状を持ってるんだけど・・・」
と彼は続け、俺がその手紙を受け取りジョアンに渡します。
するとジョアンは、興味深くその紹介状を読んでいました。
ルックラの二番シェフのジョージは英語が話せるので、彼と英語で何やら会話をしています。
しばらくするとシェフが、「いいよ、ここで働いてもらおうよ」と、快く言ってくれました。
「良かったね!働いてもいいってさ。とりあえず、いつから来る?」
だけど、彼は一度日本に帰らなければいけなかったのです。
当然ですが、ビザを持っていなかったので、俺がビザ取得のための段取りで今までやってきたことを話すと、
「一度日本に帰って学生ビザを取って戻ってくるよ」と彼は決め、とりあえず一度帰国することになりました。
そんな中、
店の忙しさだけは相変わらずで
というよりかますます忙しくなっていました。
一度、
「ディナータイムの最高人数、239名」という記録が出た日がありましたが、
さすがにこの日は皆、廃人になっていました。
厨房内で誰も会話すら交わしません(笑)
ですが、この日の最高人数が239名なだけで、
普段から200名とか220名とか毎日ザラでしたけど。
それでも、最初からいるメンバーは誰一人として辞めませんでした。
ここまで来るともう「意地」ですかね?
とにかくめちゃくちゃ忙しかったけど、仕事は楽しいしすごく充実していました。
だけど、スペインに来てからずっとコール場でしか働いてないのが俺の中で引っかかっていて、さすがにそろそろ違うセクションに移りたかったんです。
もちろん最初はなかなかOKをもらえませんでした。
なぜかといえば、「SUSHI」が出せなくなってしまうからです。
俺が作るのは恥ずかしかったけど、
スペイン人が見様見真似で作るものに比べれば、俺の「それ」はまだマシでした。
ご飯だって水の分量もきちんと教えていたし、酢飯の割合もちゃんとタイミングから混ぜ方まで。
でも、やはり実際に何度も何度も食べてみないと分からない「何か」があるのでしょうね?
逆に考えると、
「日本にあるスペイン料理のお店のコックさんで、実際にスペインで本場の料理を口にしたことがある人とない人の差」でしょうか。
どんなに見様見真似でやってみても、その「差」は見えないところで開いてくるんじゃないのかなと思います。
ひとつ思い出しました。
「いつか必ずスペインに行って、向こうの水を飲んで、向こうの太陽に照らされて、向こうの雨に打たれて来いよ! 一度行くだけでも全然違うんだからな!!」
俺がまだ広島に居たときに、ジャンボさんに何度も言われていた言葉です。
「本場のものをしっかりと学んで来いよ!」ということですよね。
俺の後輩にも同じ話をします。
「絶対に一度でもいいから、旅行でもいいからスペインに行ってきたら?」と。
これはスペイン料理に限らず、他のジャンルでも同じことが言えると思います。
その土地にどっぷりと浸かって、その国の文化、習慣、国民性など自分の五感を持って吸収してこそ、それに近づけることができるのかなと思います。
それに、若ければ若いほどいろんなことを吸収しやすいと思います。
料理はもちろん、言葉もそうです。
っていうか、
このまま脱線すると話がもっと長くなってしまいそうなので話を戻します。
結局のところ、何が言いたかったのかというと、
「だから俺は違うセクションに移動できない」ということです(笑)
そんな中、ある日ケイゴさんから久々に電話が入りました。
「どうも、久しぶりです!どうしたんですか?」
「この前うちの店の留守電に、アルサークからメッセージが入ってたぞ?」
――やっべ、すっかり忘れてた!――
★★★つづく★★★